順応してる広大なる偶然事は、すべてかくのごときものである。
正午ごろ早くも皇帝は、望遠鏡をもってまっさきに、はるか地平線の一点にある物を認めて、それに注意を集めた。彼は言った、「彼方に雲らしいものが見えるが、どうも軍隊らしい。」それから彼はダルマシー公に尋ねた、「スールト、あのシャペル・サン・ランベールの方に見えるものを君は何と思う?」元帥は双眼鏡をその方へ向けて答えた、「四、五千の軍勢です、陛下。グルーシーに違いありません。」それはなお遠く靄《もや》の中にあって動かなかった。すべての幕僚の双眼鏡は皇帝のさし示すその「雲」を見きわめようとした。ある者は言った、「佇立《ちょりつ》してる縦隊である。」また多くの者は言った、「樹木である。」ただその雲はじっと動かないでいることだけは事実であった。皇帝はドモンの軽騎兵の一隊をさいて、その不明な一点の方へ偵察につかわした。
ブューローは実際動いていなかった。彼の前衛はきわめて薄弱であって、何事もなし得なかったのである。彼は本隊を待っていなければならなかった。そしてまた、戦線にはいる前に兵力を集中せよとの命令を受けていた。しかし五時に、ウェリントンの危険を見て取って、ブリューヘルはブューローに攻撃の命令を下し、次の著名な言葉を発した、「イギリス軍に息をつかせなければいけない。」
それから間もなく、ロスティン、ヒレル、ハッケ、リッセルらの各師団は、ロボーの軍団の前面に展開し、プロシアのウィルヘルム大侯の騎兵はパリスの森から現われ、プランスノアは火炎に包まれた。そしてプロシアの砲弾は、ナポレオンの背後に予備として控えていた近衛兵の列中まで雨とそそぎ初めた。
十二 近衛兵
その後のことは人の知るとおりである。第三の軍勢の突入、戦闘の壊裂、にわかにとどろく八十六門の砲、ブューローとともに到着したピルヒ一世、ブリューヘル自ら率いたツィーテンの騎兵、押し返されたフランス軍、オーアンの高地から掃蕩《そうとう》されたマルコンネ、パプロットから駆逐されたデュリュット、退却するドンズローとキオー、半側面より攻撃されたロボー、援護を失ったフランス各連隊の上に薄暮に落ちかかってきた新戦闘、攻勢を取って進んできたイギリス軍の全線、フランス軍のうちに開けられた大きな穴、互いに相助くるイギリスとプロシアとの霰弾《さんだん》、殲滅戦《せん
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