去ってゆくのだな。」と彼は考えた。「もう自分一人だ。」
 するとたちまち頭の上に、雷が落ちたかと思われるような音が聞こえた。
 それは一すくいの土が棺の上に落ちた音だった。
 次にまた一すくいの土が落ちてきた。
 彼が息をしていた穴の一つは、そのためにふさがってしまった。
 第三の士が落ちてきた。
 次に第四の土が。
 いかに強い男にとっても、それはあまりにもひどすぎた。ジャン・ヴァルジャンは気を失った。

     七 札をなくすなという言葉の起原

 ジャン・ヴァルジャンがはいっていた棺の上の方では次のようなことが起こったのである。
 棺車が立ち去った時、そして牧師と歌唱の子供とがまた馬車に乗って帰って行った時、墓掘り人から目を離さなかったフォーシュルヴァンは、墓掘り人が身をかがめて、うずたかい土の中にまっすぐにつきさしてある※[#「金+産の旧字体」、第3水準1−93−37]《くわ》を手に取るのを見た。
 その時フォーシュルヴァンは最後の決心をした。
 彼は墓穴と墓掘り人との間につっ立ち、両腕を組んで、そして言った。
「金は私《わし》が払う。」
 墓掘り人は驚いて彼をながめ、そして答えた。
「何のことだよ?」
 フォーシュルヴァンは繰り返した。
「金は私が払う。」
「何さ?」
「酒だよ。」
「何の酒だ?」
「アルジャントゥイュだ。」
「アルジャントゥイュってどこにあるんだ。」
「ボン・コアンの家《うち》にある。」
「なんだばかにするない!」と墓掘り人は言った。
 そして彼は一すくいの土を棺の上にほうり込んだ。
 棺はうつろな音を返した。フォーシュルヴァンはよろめいて、自分も墓穴の中にころげ落ちそうな気がした。喉《のど》をしめられたようなしわがれ声を交じえて彼は叫んだ。
「おい、ボン・コアンの戸がしまらないうちにさ!」
 墓掘り人はまた※[#「金+産の旧字体」、第3水準1−93−37]《くわ》で土をすくった。フォーシュルヴァンは言い続けた。
「私が払う。」
 そして彼は墓掘り人の腕をつかんだ。
「まあきいてくれ。私は修道院の墓掘りだ。お前さんの手助けにきてるんだ。仕事は晩にすればいい。まあ一杯飲みに行ってからにしようじゃないか。」
 そう言いながらも、絶望的にしつこく言い張りながらも、彼は悲しい考えを心のうちに浮かべていた。「そして酒は飲むとしても、果して酔っ払う
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