てる壜《びん》だよ。スュレーヌの壜だ。ほんとうによ、パリーの本物のスュレーヌだ。ああメティエンヌ爺さんが死んだって。かわいそうなことをした。おもしろい爺さんだったよ。だがお前さんも、おもしろい人だね。おいそうじゃないかい。一杯飲みにゆこうじゃないかね、これからすぐに。」
男は答えた。「俺は学問をしたんだ。第四級まで卒《お》えたんだ。酒は飲まない。」
棺車は動き出して、墓地の大きな道を進んでいった。
フォーシュルヴァンは足をゆるめた。その跛は、今では不具のためよりも心配のための方が多かった。
墓掘り人は彼の先に立って歩いていた。
フォーシュルヴァンは、も一度その待ち設けないグリビエの様子をながめた。
若いが非常に老《ふ》けて見え、やせてはいるがごく強い、そういう種類の男だった。
「おい。」とフォーシュルヴァンは叫んだ。
男はふり返った。
「私は修道院の墓掘り人だよ。」
「仲間だね。」と男は言った。
学問はないがごく機敏なフォーシュルヴァンは、話の上手な恐るべき相手であることを見てとった。
彼はつぶやいた。
「それではメティエンヌ爺《じい》さんは死んだんだね。」
男は答えた。
「そうだとも。神様はその満期の手帳をくってみられたんだ。するとメティエンヌ爺さんの番だった。で爺さんは死んだのさ。」
フォーシュルヴァンは機械的にくり返した。
「神様が……。」
「神様だ。」と男はきっぱり言い放った。「哲学者に言わせると永劫《えいごう》の父で、ジャコバン党に言わせると最高の存在だ。」
「ひとつ近づきになろうじゃないかね。」とフォーシュルヴァンはつぶやいた。
「もう近づきになってるよ。君は田舎者《いなかもの》で、俺《おれ》はパリーっ児だ。」
「だがいっしょに酌《く》みかわさないうちはへだてが取れないからな。杯をあける者は心を打ち明けるというものだ。いっしょに飲みにこないかね。断わるもんじゃないよ。」
「仕事が先だ。」
これはとうていだめだ、とフォーシュルヴァンは考えた。
修道女らの埋まる片すみにゆく小道にはいるには、もう数回車輪が回るだけだった。
墓掘り人は言った。
「おい君、俺《おれ》は七人の子供を養わなけりゃならないんだ。奴《やつ》らが食わなけりゃならないからして、俺は酒を飲んじゃおれないんだ。」
そして彼は、まじめな男が名句を吐く時のような満足さで
前へ
次へ
全286ページ中264ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング