え、十字を切り、聖水をまき、そして行ってしまいます。私はメティエンヌ爺さんと二人きりになります。まったく私とは懇意なんです。彼は酔っぱらってるか、いないか、どちらかです。もし酔っぱらっていなかったら、言ってやりましょう、ボン・コアンの家がしまらないうちに一杯引っかけてこようや。私は彼を引っ張っていって酔っぱらわせます。メティエンヌ爺さんを酔っぱらわすには造作はありません。いつでもいいかげん酔っていますから。私は彼をテーブルの下に寝かし、墓地にはいる札を取り上げてしまって、一人で帰ってきます。そうすればもう私一人きりいないというわけになるんです。もし彼が初めから酔っぱらっていたら言ってやります。もう帰っていいや、私がお前の分もしてやるから。そう言えば彼は帰っていきます。そして私はあなたを穴から引き出してあげましょう。」
ジャン・ヴァルジャンは彼に手を差し出した。フォーシュルヴァンはいかにも質朴な田舎者《いなかもの》の感動をもって急いでそれを握りしめた。
「それできまった、フォーシュルヴァンさん。万事うまくゆくだろう。」
「何かくい違いさえしなければ。」とフォーシュルヴァンは考えた。「もし大変なことにでもなったら!」
五 大酒のみにては不死の霊薬たらず
翌日太陽が西に傾いたころ、メーヌ大通りのまばらな行ききの者は、頭蓋骨《ずがいこつ》や脛骨《けいこつ》や涙などの描いてある古風な棺車の通行に対して、みな帽子をぬいだ。棺車の中には、白いラシャに覆われた柩《ひつぎ》があって、両腕をひろげた大きな死人のような黒い太い十字架が上に横たえてあった。喪布を張った幌馬車《ほろばしゃ》が一つそのあとに続いて、白い法衣を着た一人の牧師と、赤い帽子をかぶった歌唱の一人の子供とが乗ってるのが見えた。黒い袖口《そでぐち》のついた鼠色《ねずみいろ》の制服を着ている二人の葬儀人夫が、棺車の左右に従っていた。その後ろに、労働者のような服装をした跛者の老人がついていた。その行列はヴォージラールの墓地の方へ進んでいった。
老人のポケットから、金槌《かなづち》の柄や鋭利な鑿《たがね》の刃や釘抜《くぎぬ》きの二つの角などがはみ出ていた。
ヴォージラールの墓地は、パリーの墓地のうちで例外のものとなっていた。それは特別の用に供されていて、したがって正門と中門とがあり、その一郭で古い言葉を守っ
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