がそうとしなかった。
「どこへ行くか見届けてやれ。」と彼は言った。そして遠くから二人の跡をつけ初めた。彼の手には二つのものが残っていた、ファンティーヌの署名した紙片のにがにがしさと、千五百フランの多少の慰謝と。
 男はコゼットを連れて、リヴリーとボンディーの方へ行った。頭をたれゆるやかに足を運んで、何か考え続けてるような、また悲しげな様子だった。冬のために森は透かし見らるるようになっていたので、テナルディエはかなり後ろの方に遠くにいたがなお二人の姿を見失わなかった。時々男はふり返って、跡をつけられてはしないかをながめた。突然彼はテナルディエを見つけた。彼はにわかにコゼットとともに深い木立ちの中にはいった。そして二人の姿は見えなくなってしまった。「悪魔め!」とテナルディエは言った。そして足を早めた。
 木立ちが込んでいたので、彼は二人に近寄らなければならなかった。男は最も茂みの深い所に達した時、ふり返ってみた。テナルディエは木の枝の間に姿を隠そうとしたがだめだった。男の目につかざるを得なかった。男は不安な一瞥《いちべつ》を彼に与え、それから頭を振って、また歩き出した。テナルディエはまたその跡をつけた。そして彼らは二、三百歩ばかり進んだ。と突然、男はまたふり向いた。彼はテナルディエを認めた。そしてこんどはきわめてすごい顔をしてじっとにらめた。でテナルディエも、それ以上行ったとて「無益」であると考えた。彼はあとへ引き返した。

     十一 九四三〇号再び現われコゼットその籤《くじ》を引く

 ジャン・ヴァルジャンは死んだのではなかった。
 海へ落ちた時、いな、むしろ自ら海に身を投じた時、彼は前に述べたとおり鎖から解かれていた。彼は水中をくぐって停泊中のある船の下まで泳ぎついた。一艘《いっそう》の小舟がその船につないであった。彼は晩まで小舟の中に隠れていることができた。夜になって再び泳ぎ出し、ブロン岬《みさき》から程遠からぬ海岸に達した。金は持っていたので、着物を手に入れることができた。バラギエの付近に一軒の居酒屋があって、その当時脱獄囚のために着物を売っていた。非常に儲《もう》かる商売だそうである。それからジャン・ヴァルジャンは、法律の目と社会の掟《おきて》とをのがれんとするすべての悲しい脱走人らがなすとおり、人知れぬ曲がりくねった道程を取った。ボーセの近くのプラドー
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