露はいいですよ、旦那《だんな》。だがそれはとにかく、あの草は、まだ若いんで刈りにくいですよ。柔らかいうちはどうも大鎌《おおかま》の下にしなってかないませんからね。」
その他種々。
コゼットはいつものとおり、料理場のテーブルの横木に、暖炉に近い所に腰掛けていた。彼女はぼろの着物を着て、素足のまま木靴をはき、そして炉の火の光でテナルディエの娘らのために、毛糸の靴足袋を編んでいた。一匹の小さな子猫が椅子《いす》の下で戯れていた。二人の子供のあざやかな笑い興ずる声が隣の室から聞こえていた。それはエポニーヌとアゼルマであった。
暖炉のすみには、一本の皮の鞭《むち》が釘《くぎ》に下がっていた。
時とすると、家のどこかにいるごく小さな子供の泣き声が、酒場の騒ぎの間に聞こえてきた。先年の冬テナルディエの上さんがもうけた男の児である。「どうしたんだろう、あまり寒いから子供ができたのかも知れない、」などと上さんは言っていた。もう今では三歳余りになっていた。彼女はその子供を育ててはいたが、少しもかわいがっていなかった。子供の激しい泣き声があまりうるさくなると、亭主は言った、「子供が泣いてる、行ってみてやれよ。」すると母親はいつも答えた、「構うもんですか! 私はくさくさしちまう。」そして顧みもされない子供は、暗やみの中に泣き続けるのだった。
二 二人に関する完稿
読者は本書において、テナルディエ夫婦についてはその横顔しか見ていない。が今や、二人のまわりを回って、前後左右からながむべき時となった。
亭主の方はちょうど五十の坂を越したばかりであった。女房の方は四十台になっていた。四十といえば男の五十に当たる。それで二人の間に年齢の不釣り合いはなかったわけである。
背が高く、金髪で、あから顔で、脂《あぶら》ぎって、肥満して、角張《かくば》って、ばかに大きく、そしてすばしこいテナルディエの上さんを、読者はたぶん彼女が初めて舞台に現われて以来記憶しているであろう。前に言っておいたとおり彼女は、市場をのさばり歩く野蛮な大女の仲間に属していた。家の中のことはすべて一人でやった、寝所をこしらえ、室《へや》を片付け、洗濯《せんたく》をし、料理をし、雨の日も天気の日も、何でも手当たりしだいにやってのけた。そして唯一の下女としてはコゼットがいた、象に使われてる一匹の小|鼠《ねずみ》み
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