らなかったので、政府の方でガンニーからランニーまでの横道の道路工夫として安い給料で使っていた。
ブーラトリュエルはその地方の人々から蔑視《べっし》されていた。彼はばか丁寧で、あまり身を卑下していて、だれにでもすぐに帽子を取っておじぎをし、憲兵らの前では震えながら愛想笑いをし、たぶん盗賊団の仲間にはいっているのだろうと人から言われており、夕方などは森陰にひそんで人を待伏せしていると疑われていた。ただ人間らしい取りえとしては、酒飲みであるということくらいであった。
人々の目についたのは次のようなことであった。
近頃いつもブーラトリュエルは、道路に砂利を敷いて手入れをする仕事をごく早めに切り上げ、鶴嘴《つるはし》を持って森の中にはいってゆくのだった。夕方など、最も人けの少ない伐木地や最も寂寞《せきばく》たる茂みの中などで、時々穴を掘ったりして何かさがし回ってるような彼に、出会うことがよくあった。そこを通りかかった女たちは、初めそれをベルゼブル([#ここから割り注]訳者注 新約聖書にある悪鬼の頭[#ここで割り注終わり])だとさえ思ったが、よく見るとブーラトリュエルであった。それでも彼女らは心が安まらなかった。しかるにブーラトリュエルはそういうふうに人に出会うことを非常にいやがってるらしかった。明らかに彼は人に見られるのを避けようとしていた、そして彼の仕業のうちに何か秘密があるのは明らかだった。
村ではいろいろなことが言われた。「きっと悪魔が現われたに違いない。ブーラトリュエルはそれを見てさがしているのだ。なるほどあの男なら魔王の金をまき上げるくらいのことはやりかねない。」ヴォルテール流の者らはつけ加えた。「ブーラトリュエルが悪魔を捕えるか、悪魔がブーラトリュエルを捕えるかだ。」年老いた女たちは幾度も十字を切った。
そのうちにブーラトリュエルは森の中の仕事をやめてしまった。彼は道路工夫の仕事をまた几帳面《きちょうめん》にやり出した。人々の噂《うわさ》も他のことに向いていった。
けれども中にはまだ好奇心をいだいていて、おそらくそれには、伝説の荒唐無稽《こうとうむけい》な宝物ではなく、悪魔の手形よりはもっとまじめな、もっと実際的な獲物があって、道路工夫はきっとその秘密を半ば嗅《か》ぎ出したのだろう、と思ってる者もあった。そして最も「気をやんでいた」者は、小学校の先生と
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