る窓の方へ真っすぐに小刻みに歩いていった。夜は真っ暗ではなかった。ちょうど満月で、ただ風に追わるる大きな雲のかたまりがその面《おもて》を流れていた。そのために外は影と光とが入れ交じり、あるいは暗くあるいは明るくなり、そして家の中には薄ら明るみが湛《たた》えていた。雲のために明滅するその薄明りは、足下を輝《て》らすには十分であって、ゆききする人影に妨げられるあなぐらの風窓から落つる一種の青白い光にも似ていた。窓の所へきて、ジャン・ヴァルジャンはそれを調べてみた。窓には格子《こうし》もなく、庭に向いていて、その地方の風習に従って小さな一つの楔《くさび》でしめてあるきりだった。彼はその窓を開いた。しかし激しい寒風が急に室の中に吹き込んだので、またすぐにそれをしめた。彼はただながめるというよりもむしろ研究するといったふうな注意深い目付きで庭をながめた。庭はわけなく乗り越されるくらいのかなり低い白壁で囲まれていた。庭の奥の向こうに、彼は一様の間隔を置いた樹木の梢《こずえ》を認めた。それによってみれば、壁はある大通りかもしくは樹の植わった裏通りと庭との界《さかい》になってるらしかった。
その一瞥
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