ド・コルバの亭主が入り口に立っていて、宿の客人たちや通りすがりの人たちにとりかこまれて、声高に話しながら彼の方を指《さ》しているのを見たであろう。そしてまた、群集の目付の中にある軽侮や恐怖の色によって、彼がやってきたことはやがて町中の一事件となるだろうということを見て取ったであろう[#「見て取ったであろう」は底本では「見て取ったのであろう」]。
が彼はそれらのことを何にも見なかった。絶望しきった者は自分の後ろを振り返り見ないものである。悪い運命が自分の後について来るのをあまりによく知っている。
彼はそうしてしばらく歩いて行った。ちょうど悲しみに沈んだ時に人がなすように、知らない通りをむやみに歩きながら疲れも忘れてただ歩き続けた。と突然彼は激しく空腹を感じた。夜は迫っていた。彼は何か身を宿すべき場所はないかと思ってあたりを見回した。
りっぱな宿屋は彼に対して閉ざされたのである。彼は粗末な居酒屋《いざかや》か貧しい下等な家をさがした。
ちょうど通りの向こうの端に燈火《あかり》がひらめいていた。鉄の支柱につるされている一本の松の枝が薄暮のほの白い空に浮き出していた。彼はそこへ行ってみ
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