ううつ》が女の流行となり初め、女性の髪は悲しげに装うことが初まっていた。ゼフィーヌとダーリアとは捲《ま》き髪であった。リストリエとファムイュとは教師らのことを論じ合って、デルヴァンクール氏とブロンドー氏との違いを、ファンティーヌに説明してきかしていた。
 ブラシュヴェルは、ファヴォリットのテルノー製の片方縁飾りのショールを日曜日ごとに腕にかけて持ち歩くために、特に天より創《つく》られたかの観があった。
 トロミエスは後《あと》に続いて、その一群を支配していた。彼は大変快活だった。しかしだれも何かしら彼のうちに皆を支配する力のあるのを感じていた。彼の陽気さのうちには執政権が含まれていた。その重な身の飾りは、南京木綿《なんきんもめん》で象脚形に仕立てたズボンと、それについてる銅色の打ちひものズボン止めであった。手には二百フランもする丈夫な籐《とう》の杖を持っていた。そしてどんなことでもやってみるつもりだったので、口には葉巻き煙草というへんてこなものをくわえていた。彼にとっては何もありがたいというものはなかったので、彼はそれを平気でくゆらしていた。
「トロミエスは実にえらい。」と他の者らは尊敬の言葉を発した。「あのズボンはどうだ! あの元気はどうだ!」
 ファンティーヌに至っては見るも喜ばしい女であった。そのみごとな歯並びは明らかに神から一つの職分を、すなわち笑いを、授かっていた。長い白ひものついた麦藁《むぎわら》編みの小さな帽子を、頭に被《かぶ》るよりもむしろ好んで手に持っていた。そのふさふさした金髪は、ややもすれば波打って容易に解《ほど》けやすいので絶えず押さえ止めなければならなかった、そして柳の木の下を逃げてゆくガラテア姫にもふさわしく思われるのだった。その薔薇《ばら》色の脣《くちびる》は人を惑わす魅力をもってむだ口をきいていた。その口の両端は、エリゴーネの古代面におけるがように肉感的にもち上がっていて、男の元気を励ますように見えた。しかし影深い長い睫毛《まつげ》は、顔の下部のそのはなやかさの上に、それを静めるためででもあるかのようにしとやかに下がっていた。その全体の服装《みなり》は、歌うがごとく燃ゆるがごとく、何ともいえない美しさだった。葵《あおい》色の薄ものの長衣をつけ、海老茶《えびちゃ》色の小さな役者靴をはいていた。靴のリボンは、真っ白な繊《こま》かな透き靴足
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