たれた。その晩、巡邏《じゅんら》の人々は、彼がある建造中の船の竜骨の下に隠れているのを見い出した。彼は自分を捕えにきた守衛に向かって抵抗した。脱獄と抵抗。特別法に規定せられていたその事実は、五カ年の増刑とそのうち二年の二重鉄鎖の刑とによって罰せられた。計十三カ年。十年目にまた機会がきた、そして彼はそれに乗じた、やはりうまくゆかなかった。しかしその新しい未遂犯のために三カ年。計十六カ年。終わりに十三年目だったと思うが、彼は最後にも一度やってみたが、ようやく四時間身を隠し得ただけでまたつかまった。その四時間のためにまた三カ年。計十九カ年。一八一五年十月に、彼は放免せられた。彼は窓ガラスを破りパンの一片に手をつけたがために、一七九六年にそこにはいったのであった。
ここにちょっと一言余事をはさむ。本書の著者が刑法問題ならびに法律上の処刑判決について研究中、一片のパンの窃盗が一人の運命の破滅の出発点となった例に接するのは、これが二回目である。クロード・グウという男も一片のパンを盗んだ、ジャン・ヴァルジャンも一片のパンを盗んだ。英国のある統計によれば、ロンドンにおいて行なわれた窃盗中、五件のうち四件まではその直接原因が飢えにあることを証している。
ジャン・ヴァルジャンはすすり泣きし戦慄《せんりつ》しながら徒刑場にはいった、そしてまったく没感情的になってそこから出てきた。彼はそこに絶望をもってはいり、そこから沈鬱《ちんうつ》をもって出てきた。
彼の魂のうちにはいかなる事が起こったのであったか?
七 絶望のどん底
さて彼の魂のうちにいかなることが起こったかを述べてみよう。
それらのことを作り出したのは社会であるから、社会はまさにそれらのことを見るべきである。
前述のごとくこの男は無知であった、しかしながら遅鈍ではなかった。自然の光明は彼のうちにも点ぜられていた。不幸もそれ自身の光を有するもので、それはこの男の精神のうちにあった少しの明るみをいっそう大きくなした。鞭《むち》の下に、鎖の下に、牢獄のうちに、疲労の間に、徒刑場の燃ゆるがごとき太陽の下に、囚徒の板の寝床の上に、彼は自分の内心を顧み、考えにふけった。
彼は自分を法官の地位に置いてみた。
彼は我と我が身を裁断し初めた。
彼は自分を無実の罪で罰せられた潔白な者とは思わなかった。罰せらるべきひどい行
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