受けてる思い出を恐れていた。そして、ドイツへは数か月間もどったことがあり、自作の演奏を指揮するためにときどきもどって行くことがあったけれど、そこに定住しはしなかった。あまりに多くの事柄が彼の気をそこなった。それはドイツ特有の事柄ではなかった。他へ行っても見出されるものだった。しかし人は他国よりも自国にたいしてはいっそう気むずかしくなるものであり、自国の弱点をより多く苦にするものである。また実際、ドイツはヨーロッパの罪悪のもっとも多量をになっていた。人は勝利を得るときには、それについて責任を有し、打ち負かした人々にたいして一つの負債をもっている。彼らの先に立って進み、彼らに道を示してやるという、暗黙の契約を結ぶのである。勝利者のルイ十四世は、フランスの理性の光輝をヨーロッパにもたらした。しかるにセダンの勝利者たるドイツは、いかなる光明を世にもたらしたか? 銃剣の光輝をか? それは、翼のない一つの思想、寛容のない一つの行動、獰猛《どうもう》なる一つの現実主義であった。健全なるものだとの口実さえも許されぬ現実主義であった。暴力と利益、行商人のマルス神であった。四十年の間、ヨーロッパは闇夜《や
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