との結婚をですか……。昔私の美しい従姉《いとこ》へばかり眼をつけていらしたときのことを、あなたは覚えていらっしゃいますか。あのとき私は、あなたにたいして感じている事柄をあなたに悟っていただけないのが、ほんとに悲しゅうございました。もし悟っていただいてたら、私たちの生活はすっかり違ったかもしれません。けれども今では、このほうがかえってよいと私は考えますの。共同生活の苦難に私たちの友情をさらさなかったのは、かえってよいことでした。共同の日常生活では、もっとも純潔なものもついには汚れてしまいますから……。」
「そんなことをおっしゃるのは、私を昔ほど愛してくださらないからです。」
「いいえ、私はやはり同じようにあなたを愛しております。」
「ああそれを私に言ってくだすったのはこれが初めてです。」
「私たちの間ではもう何も隠してはいけませんもの。いったい私は結婚というものをあまり信じてはおりません。もちろん私自身の結婚が十分の実例にはなりませんが、私はいろいろ考えてみたり、周囲をながめてみたりしました。幸福な結婚というものはめったにありません。それはやや自然に反したことです。二人の者の意志をいっしょに結びつけるには、両方でないまでもその一方を、不具にしてしまわなければなりません。そしておそらくそんな苦しみは、人の魂を有益に鍛錬するものではありません。」
「ああ私は、」と彼は言った、「かえって結婚を非常に美しいことだと思うんです、二人の献身の結合、一つに混和した二つの魂を。」
「あなたの空想のうちでは美しいことかもしれません。けれど実際に当たっては、あなたはだれよりもお苦しみなさるでしょう。」
「なんですって! あなたは私を、妻や家庭や子供をもつことのできない者だと思われるのですか?……そんなことを言ってはいけません。私は妻や家庭や子供をどんなにか愛するでしょう! あなたはその幸福が私には得られないものだと思われるのですか。」
「よくわかりませんが、まあ駄目《だめ》でしょうね……。けれどあるいは、あまり利口でなく、あまりきれいでもなく、あなたに身をささげて、そしてあなたを理解できない、ごく人のいい女となら……。」
「ひどいことを!……けれど私をからかうのは間違っていますよ。善良な女ならたとい頭が悪くとも、いいものです。」
「私もそう思いますわ。そういう女を捜してあげましょうか。」
「もうどうか言わないでください。私は心が刺し通されるようなんです。どうしてあなたはそんな言い方をなさるんでしょう?」
「私が何かいけないことを申しましたか。」
「私を他の女と結婚させようなどと考えられるのは、私を少しも愛してくださらないからでしょう、まったく少しも。」
「いいえ、反対にあなたを愛してるからですわ。あなたを幸福にして上げるのがうれしいからです。」
「では、それがほんとうでしたら……。」
「いえいえ、そんなことに話をもどすのはよしましょう。きっとあなたの不幸になることですから。」
「私のほうは気にかけないでください。確かに私は幸福になるでしょうから。けれども、ほんとうのことを言ってください。あなたは私といっしょになって、不幸になるだろうと思っていられるのでしょう?」
「まあ、私が不幸になる、そんなことがあるものですか。私はあなたを尊敬していますし、たいへん敬服していますから、あなたといっしょになって不幸になるなどということはけっしてありません。……それに、なお申しますと、私はもう今ではどんなことがあっても、不幸になってしまうことはないように思われます。私はあまりいろんなことを見てきましたし、哲学者じみてきています。……けれども、うち明けて申しますと――(それがあなたはお望みでしょう、お怒《おこ》りにはならないでしょうね)――実は私は自分の弱点をよく知っています。幾月かたつうちには、かなり馬鹿《ばか》げた女になってしまって、あなたといっしょにいて十分幸福ではなくなるかもしれません。それが私にはつらいのです。なぜなら私は、あなたにたいしてこの上もなく清い愛情をいだいていますから。私はどんなことがあってもこの愛情を曇らしたくありません。」
 彼は悲しげに言った。
「まったく、あなたがそんなふうに言われるのは、私の苦しみを和らげるためでしょう。私はあなたの気には入らないのです。私のうちにはあなたの嫌《いや》がられるものがたくさんあるんです。」
「いいえ、けっしてそうではありません。そんなに不平そうな顔をなすってはいけません。あなたはりっぱななつかしい方です。」
「それなら私には訳がわかりません。なぜ私たちは一致することができないのでしょうか。」
「あまり人と違ってるからですわ、二人ともあまり特徴のあるあまり個性的な性質だからですわ。」
「それだから私はあなたを
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