、血が流れ出るほど傷つけられた。
「ああもし批評家らが、」と彼は言った、「うっかり発する不正な言辞で、いかなる害を芸術家たちに与えてるかを知ったら、自分の職務を恥ずるに違いないです。」
「でも彼らはそんなことを知ってるよ。そしてそれが彼らの生存の理由なんだ。すべての者が生きなければいけない。」
「彼らは冷血漢です、われわれは生活のために血まみれになり、芸術上でなすべき戦いに疲れはてています。そういうわれわれに手を差し出し、われわれの弱点を同情の念で語り、その弱点を償うように親しく助けてくれるのがほんとうです。しかし彼らはそんなことをするどころか、両手をポケットにつっ込んで、重荷を負って坂を上るわれわれをうち見やって『できるものか……』と言っています。そしてわれわれが頂まで登りつくと、『なるほど、しかしそんな登り方をしたのはいけない、』とある者は言います。またある者は、『まだ登りつけてやしない……』と頑固《がんこ》に繰り返します。われわれをころがそうとして足に石を投げつけないとすれば、まだしも幸いというべきです。」
「なあに、彼らの中にだって二、三のりっぱな者がいないとは限らない。でもいったい彼らにどんないいことができるものか。そして愚劣な者はどの方面にだっている。それは職分によることではない。たとえば、温情はなく虚栄心に富んで気短かで、世の中を餌食《えじき》と心得ていて、それをつかみ取ることができないのを憤ってる芸術家などは、もっともいけない者ではないだろうかね。人は忍耐をもって武装していなければいけないよ。いかなる悪も多少の役にたたないものはない。もっとも悪い批評家もわれわれに有益になる。それは一つの刺激者となる。われわれに道草を食うことを許さない。われわれがもう目的地へ達したと思うことに、犬どもはわれわれの尻《しり》に噛《か》みつく。前進し、なお遠く行き、なお高く登ることだ。そうすれば、先に立って進むことにこちらで疲れるよりも、犬どものほうでついて来ることに疲れるだろう。アラビヤの格言を思い出してみたまえ。『実を結ばぬ木は苦しめられない[#「実を結ばぬ木は苦しめられない」に傍点]。金色の果実を頭にいただいてる木だけが[#「金色の果実を頭にいただいてる木だけが」に傍点]、石を投げつけられる[#「石を投げつけられる」に傍点]。』……人から用捨される芸術家たちこそ気の
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