で、時としますと、それらの悪魔の群れを世に放《はな》って悪い行ないをしてるように、我ながら思われることがあります。聴衆が落ち着いてるのを見ると初めて安堵《あんど》します。彼らは二重も三重もの鎧《よろい》をつけています。何物からも害せられることがありません。もしそうでなかったら私は天罰を受けることでしょう……。あなたは私が自分自身にたいしてあまりに厳格だとおとがめなさいます。けれどそれは、私ほどによく私自身を御存じないからです。人はわれわれがどういうものになってるかを見てとります。しかしわれわれがどういうものになり得たろうかを見てとりはしません。そして人々がわれわれをほめるのは、われわれ自身の価値から来たところのものについてよりもむしろ、われわれを運ぶ事変やわれわれを導く力などから来たところのものについてです。私に一つの話を述べさしてください。
先日の晩、私はある珈琲《コーヒー》店へはいりました。この種の珈琲店では、変なふうにではあるがかなりいい音楽がやられています。五、六の楽器をピアノに添えて、交響曲《シンフォニー》やミサ曲や聖譚曲《オラトリオ》などが演奏されています。ちょうどローマのある大理石細工商のうちで、暖炉の置物としてメディチ礼拝堂を売ってるのと同じです。そんなことは芸術に役だつようです。芸術を世の中に普及させるためには、その合金の通貨を作らなければいけません。それにまたこれらの音楽会では期待が裏切られることはありません。番組は豊富で演奏は真面目《まじめ》です。私はそこで一人のチェリストに会って、交わりを結びました。彼の眼は不思議に私の父の眼を思い出させました。彼は私に身の上を語ってきかせました。彼の祖父は百姓であって、父は北方のある村役場に雇われてる小役人でした。親たちは彼をりっぱな者に、弁護士になすつもりでした。そして近くの町の学校にはいらせました。しかし強健粗野な彼は、弁護士なんかになろうとする熱心な勉強には不適当でして、窮屈な所にじっとしてることができませんでした。彼は壁を乗り越して外に出で、野の中を歩き回り、娘たちを追っかけ回し、自分のたくましい力を喧嘩《けんか》に費やしました。その他の時はただぼんやり彷徨《ほうこう》して、とうていできもしないような事柄を夢みました。そしてただ一つ彼の心をひきつけるものがありました。それは音楽です。なぜだかは神に
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