ていその移り気には私心は含まれていない。実際行動を一つの芝居のごとく思って、正直ではあるがいつでも役目を変え得るりっぱな俳優のような態度をとる、いかに多くの実行家が世にあることだろう! マヌースは革命家の役目に、できうるかぎり忠実であった。それは、彼の生来の無政府的気質と通過する国々の掟《おきて》を破壊する喜びとに、もっとも適合した役割だった。がそれでもやはり、一つの役目にすぎなかった。彼の言論のうちに虚構と真実とがどれくらい交じり合っているかは、けっしてだれにもわからなかった。そして彼自身にも、ついにはそれがよくわからなくなっていた。
怜悧《れいり》で嘲笑《ちょうしょう》的で、ユダヤとロシアとの両民族の機敏な心理をそなえ、自分の弱点とともに他人の弱点をも驚くほどよく読みとることができ、そしてそれを利用することに巧みだった彼は、容易にカネーを支配することができた。彼はこのサンチョ・パンサをドン・キホーテ流の暴挙に引き込むのを面白がった。彼はこの男の意志や時間や金銭を勝手に取り扱って、自分のためにではなく――(彼には何も入用なものがなかった。何によって彼が生活してるかはだれにもわからな
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