んでるのに等しかった。博物館の品物であり、ガラス棚《だな》の中の包み込まれたミイラであって、だれも目に止めるものはなかった。しかし民衆がそれを奪い取るや否や、民衆はそれを民衆化し、熱狂的な現実性をそれに付与した。そしてこの現実性のために、それは変形して、幻覚的な希望を、時代の熱風を、それら抽象的な論理の中に吹き込まれ、生き上がってきた。人から人へと伝わっていった。だれもみなそれに感染したが、だれによってまたいかにしてそれがもちきたされたかを知らなかった。それはほとんど人選びをしなかった。精神上の伝染が広がりつづけた。愚昧《ぐまい》な人々が優秀者へそれを伝えることさえあった。各人がみずから知らずしてそれをもち回っていた。
 こういう知的感染の現象は、すべての時代にまたすべての国にあるものである。たがいに門戸を閉ざし合った階級を維持せんとする貴族的な国家のうちにさえ、それが感ぜられる。けれども優秀者と衆人との間になんらの衛生境界をも保存しない民主国において、それはどこよりもことに猛烈である。優秀者もすぐに感染する。いかに高慢であり知力すぐれていても、その感染を免れることはできない。なぜなら
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