れらにいかなる意義があったのか?」……生の無意義さ。死の無意義さ。一人の者が消し去られ、一族の者全部が消滅して、そのあとにはなんらの痕跡《こんせき》も残らない。嫌悪《けんお》すべきか滑稽《こっけい》視すべきかもわからない。害悪な笑いが、憎悪と絶望との笑いが、クリストフを襲ってきた。かかる苦悶《くもん》の無力さとかかる無力さの苦悶とに、彼は打ち負けてしまった。彼の心は紛砕された……。
 医師ブラウンが往診に出かける足音のほか、家の中にはなんの音も聞こえなかった。クリストフは時間の観念を失ってしまった。そこへアンナが現われた。盆に食事をもってきていた。彼はただ彼女をながめたきりで、礼を言うための身振りもしなければ唇《くちびる》さえ動かさなかった。しかし何にも見てないような彼のすわった眼の中には、その若い女の面影が写真のようにはっきりと刻み込まれた。ずっとあとになって彼女をもっとよく知ったときも、やはり彼はそういうふうにして彼女を見たのだった。新しい種々の面影もその第一の記憶を消すにいたらなかったのである。彼女は重々しい束髪に結《ゆわ》えた濃い髪をもち、額は出ており、頬《ほお》は広く、鼻は短
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