のではない。君たちは皆恐れてるんだ。打撃の恐怖というやつさ……。そういう恐怖が至る所にある。有産者のうちにも、民衆のうちにも、全国民のうちに、西欧の各国民のうちにある。人はもう十分の血をもっていない。血を流すことを恐れている。四十年この方、万事が言葉の中だけで過ぎ去っている。君たちの有名なドレフュース事件だって考えてみたまえ。君たちは『死だ、血だ、殺戮《さつりく》だ!』とやかましく叫んだじゃないか……。がなんというガスコーニュの徒だ。無駄口をたたいたりインキを流したりしただけで、幾滴の血が流されたか!」
「そうばかりだと思ってちゃいけない。」とオリヴィエは言った。「血を恐れるというのは、最初血が流されたら、人の獣性が猛《たけ》りたち、文明の仮面は落ち、獰猛《どうもう》な牙《きば》をそなえた獣面が現われて、それに口枷《くちかせ》をはめることができるかどうかわからなくなるだろうという、ひそかな本能的な感情からなんだ。人は皆戦いを躊躇《ちゅうちょ》してる。しかし戦いがもし起こったら、狂暴な戦いとなるだろう……。」
 クリストフは肩をそびやかした。嘘《うそ》つきの英雄を――法螺《ほら》吹きのシ
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