いなかった。彼の常住不変な楽天主義は、自分の欲するとおりに事物をながめて、心にそわない事物は、眼に止めないかもしくはすぐに忘れるかした。心に反する経験はすべて彼の皮膚からすべり落ちて、少しの痕跡《こんせき》をも残さなかった。――彼らは二人とも、空想的な年老いたお坊っちゃんで、現実にたいする感覚をもってはいず、ただ革命の名に酔ってるだけで、革命そのものは、みずから自分に話してきかしてる美しい話にすぎなくて、それがいつ起こってくるものやらあるいはもう起こってるものやら、よくはわかっていなかった。そして二人とも、人の子[#「人の子」に傍点]の前に幾世紀間も平伏した遺伝的な習慣を移しかえて、神なる人類[#「神なる人類」に傍点]を信仰していたのである。――二人とも反僧侶派だったのはむろんのことである。
おかしなことには、この善良な紙屋はごく信心深い姪《めい》といっしょに暮らしていて、その自由になっていた。彼女は濃い栗《くり》色の髪の背の低い女で、ぽってりと肥満し、眼がぎろりとして、マルセイユ風の強い調子でいっそう引き立つ快弁をそなえていた。商務省の一編集官の寡婦だった。財産もなくて娘と二人きり
前へ
次へ
全367ページ中106ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング