みごとな呑気《のんき》さがあった。彼女も不幸な目に会ったことがある。三か月前に、愛していた十五歳の男の子が死んだ……。大きな悲しみだった……。しかし今では、彼女はまた活発に快活になっていた。彼女はこう言っていた。
――そんなことをいつも考えていたら、生きてることができないだろう。
そして彼女はもうそのことを考えていなかった。それは利己主義ではなかった。彼女にはそうよりほかにできなかったのである。彼女の生活力はあまりに強かった。彼女は現在のことに没頭していた。過去のことにぐずぐず引っかかってることができなかった。今あるがままのことに順応していた。どういうことになってもそれに順応するだろう。もし革命が起こって表と裏と引っくり返っても、彼女はやはりつっ立ってることができるだろうし、なすべきことをなすだろうし、どこへ置かれても平然としてるだろう。本来彼女は、革命にたいして程よい信じ方しかしてはいなかった。信仰については、どんなことにもほとんどそれをもたなかった。と言ってもとより、思い惑ったときには占いをしてもらうこともあったし、死人に出会うとかならず十字を切った。彼女はごく自由で寛容であって、パリー平民の懐疑心をもっていた。あたかも呼吸するように軽々と疑うあの健全な懐疑心をもっていた。革命者の妻ではあったが、亭主《ていしゅ》とその一派の――またはあらゆる他の党派の――観念にたいして、青春の――また成年の――愚昧《ぐまい》な行為にたいするがように、母性的な皮肉を示していた。重大なことにも心を動かしはしなかった。けれど何事にも興味をもっていた。そして幸運にも不運にも驚きはしなかった。要するに彼女は楽天家だった。
――くよくよするものではない……。丈夫に暮らしてさえおれば、いつでも万事うまくゆくものだ……。
この女はクリストフと気が合うに相違なかった。二人は自分たちが同種の人間だと見てとるためには、多くの言葉を要しなかった。他の者たちが論じたり叫んだりしてる間に、二人はときどき機嫌《きげん》のよい微笑をかわした。けれどもたいていは、クリストフがそれらの議論に引き込まれて、すぐに人一倍の熱情で論じ出すのを、彼女は一人笑いながらながめていた。
クリストフはオリヴィエの孤立と困惑とを眼に止めていなかった。彼は人々の胸底に起こってる事柄を読みとろうとはつとめなかった。ただ彼は
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