引き離しながら叫んだ。
「あっちへ行ってください!……ああ、あなたは何をしたんです?」
 彼女は彼を打った。しかし激情にくじけて、枕の《まくら》上に倒れ伏した。そしてすすり泣いた。
「おお、また今までどおりのことが!」
 クリストフは彼女の両手を執りながら彼女を抱擁し、彼女を叱《しか》り、やさしいまた手荒い言葉を言ってやった。
「死ぬんですか! 私を打ち捨てて。一人で死ぬんですか!」
「あああなたは!」と彼女は痛ましげに言った。
 その調子には、こういう意味が十分こもっていた。
「あなたは、あなたは生きるのが望みです。」
 彼はきびしい言葉を発して彼女の意志をくじいてやりたかった。
「馬鹿な真似《まね》をしますね!」と彼は言った。「家を爆発させるかもしれないのが、わからないんですか。」
「それが私の望みです。」と彼女は憤然として言った。
 彼は彼女の宗教上の恐れを呼び覚《さ》まそうとした。それは急所だった。彼がそこに触れるや否や、彼女は泣き声を立てて言ってくれるなと願った。彼は彼女のうちに生きる意志を呼びもどす唯一の方法であると考えて、なお無慈悲に言いつづけた。彼女はもうなんとも言わないで、痙攣《けいれん》を起こしたようにしゃくり上げていた。彼が言い終えると、彼女は恨みをこめた調子で言った。
「もうそれで御満足でしょう。たいへん骨折ってくだすって、私をすっかり絶望さしておしまいなすった。そしてこれから、私はどうしたらいいんでしょう?」
「生きるんです。」と彼は言った。
「生きるんですって!」と彼女は叫んだ。「生きることはとてもできないのが、おわかりにならないんですか。何にも御存じないんですね。何にも御存じないんです!」
 彼は尋ねた。
「何かあったんですか。」
 彼女は肩をそびやかした。
「こうなんです。」
 彼女は短い切れ切れの言葉で、今まで彼に隠していたことをすっかり話した。ベービの間諜《かんちょう》、灰、ザーミとの場面、謝肉祭、さし迫ってる恥辱。彼女はそんなことを話しながら、恐怖のあまり自分でこしらえ出した事柄と、当然恐るべき事柄とを、もう見分けがつかなかった。彼もその話を聞きながら狼狽《ろうばい》して、真実の危険と想像上の危険とを識別することが、彼女よりさらにできなかった。人々からあとをつけられてるとは少しも気づいていなかった。彼は理解しようとつとめた。そし
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