嘆していた。クリストフの革命観を知っていた。自分に関係もない主旨のために冒してる馬鹿げた危険から、クリストフを救い出してやりたかった。無謀な行ないの中で頭を割るの危険ばかりではなかった。もし捕縛されたらあらゆる返報を受けるに違いなかった。もう長い前から警告されていたし、警察から眼をつけられていた。自分の暴挙ばかりでなく他人の暴挙をも背負わせられそうだった。グザヴィエ・ベルナールが職務上と面白半分とで群集の間をうろついてたが、マヌースに出会って、通りすがりに呼び止めて言った。
「クラフト君は馬鹿だ。防寨の上で浮かれきっている最中だ。こんどはわれわれのほうでも不問に付しちゃおけない。なんとか、逃走するようにしてやりたまえ。」
言うは易《やす》く行なうは難《かた》かった。オリヴィエが死にかかってることをもし知ったら、クリストフは怒りに狂い立って、人を殺し自分も殺されるだろう。マヌースはベルナールに言った。
「すぐに出発させなけりゃ駄目だ。僕が連れ出そう。」
「どういうふうにして?」
「カネーの自動車で。向こうの町角にあるから。」
「それはどうも……。」とカネーは息をつまらして言った。
「彼をラローシュに連れて行ってくれ。」とマヌースは言いつづけた。「ポンタルリエ行きの急行に間に合うだろう。そしてスイスに落としてやってくれ。」
「承知しやすまい。」
「承知するよ。ジャンナンはもう出発していて、向こうでいっしょになるだろうと、僕が言ってやろう。」
カネーの異議を耳にも入れずに、マヌースは防寨の上へクリストフを捜しに行った。彼は大して勇気がなかった。小銃の音を聞くたびに背をかがめた。自分が殺されるかどうか知るために、歩いてる舗石の数を――(偶数か奇数か)――数えていた。しかしあとに引き返しはしないで、行く所までやって行った。彼が着いたとき、クリストフはくつがえされた乗合馬車の車輪の上に上って、ピストルを空中に発射して面白がっていた。防寨の周囲には、舗石から吐き出されたパリー下層民らが、豪雨のあとの下水道の汚水のようにあふれていた。最初の戦士らはその中に没してしまっていた。マヌースはこちらに背を向けてるクリストフを呼んだ。クリストフにはそれが聞こえなかった。マヌースは彼のところまでよじ上っていって袖《そで》を引っ張った。クリストフはそれを振り払って危うく突き落とそうとした。マ
前へ
次へ
全184ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング