丈夫な腰をもっていなけりゃいけない。」
 彼はオリヴィエに危険を知らせたかった。けれども、オリヴィエが眼に喜びをたたえてジャックリーヌのところからもどってくるのを見ると、もう話すだけの勇気がなかった。彼は考えた。
「かわいそうに……二人は幸福なのだ。彼らの幸福を乱さないことにしよう。」
 オリヴィエにたいする愛情のあまり、彼はしだいにオリヴィエの信じきってる心にかぶれてきた。彼の心は安まっていった。そしてついには、ジャックリーヌはオリヴィエが考えてるとおりの女であり、また彼女自身で希望してるとおりの女であると、信ずるようになった。彼女は誠意に満ちてるのだった。彼女がオリヴィエを愛するのは、自分や自分の社会と異なった点を彼がもってるからだった。異なってるという訳は、彼は貧しかったし、自分の道徳観念に一徹だったし、人中に出て拙劣だった。彼にたいする彼女の愛はいかにも純粋で傾倒的だったので、彼女は彼と同じように貧しくなりたかったし、時としてはほとんど……そうだ、ほとんど醜くさえもなりたかった。そして、ただ自分だけとして愛されることを、自分の心が飽満しかつ渇望している愛のために愛されることを、
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