おいっそう幸福になるでしょう。」
 ジャックリーヌの顔は間延びて、不平げな様子になった。
「私いやですわ。」と彼女は言った。「そんなではちっとも楽しくなさそうですもの。」
 マルトはやさしく笑い、ジャックリーヌをながめ、溜息《ためいき》をつき、それからまた編み物にとりかかった。
「かわいそうに!」と彼女はまた言った。
「どうして叔母《おば》さまはいつも、かわいそうにとおっしゃるの?」とジャックリーヌは不安げに尋ねた。「私かわいそうなものにはなりたくありませんわ。ほんとに、ほんとに幸福になりたいんですわ。」
「それだから私は、かわいそうに! と言ってるのです。」
 ジャックリーヌは少し口をとがらした。しかしそれは長くつづかなかった。マルトの善良な笑顔に彼女は気が折れた。彼女は怒ったふうをしながらマルトを抱擁した。実際人はこの年ごろでは、将来の、はるかな将来の、悲しい予想から、ひそかに媚びられずにはいられないものである。遠くから見ると、不幸は詩の円光を帯びてくる。もっとも恐ろしく思われるものは、平凡な生活である。
 ジャックリーヌは、叔母《おば》の顔がいつもますます蒼《あお》ざめてゆくのに
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