いきりたって、家庭の務めと中庸の財産[#「中庸の財産」に傍点]とをもって人は幸福であり得る――幸福であり得なければならない――という思想を、「市井的な卑しいもの」だと見なした。恋愛のうちに惜し気もなく自己を投げ出した過去のことを、会得することさえできなくなった。
 オリヴィエは戦えるほど強くはなかった。彼自身もまた変わっていた。教師の職を捨てて、もう何にも義務的な仕事をもたなかった。ただ文筆を執ってるばかりだった。生活の平衡はそのために変わってきた。これまで彼は、芸術にすっかり没頭できないのを苦しんでいた。ところが今や芸術に身を委《ゆだ》ねてしまうと、雲霧のなかに迷い込んだ心地がした。職責を分銅《ふんどう》とせず強い実生活を支持としない芸術、おのが肉体のなかに日々の務めの針を感じない芸術、パンを得る必要のない芸術は、そのもっともよき力と現実性とを失うものである。それはもはや贅沢《ぜいたく》の花にすぎない。それはもはや人間の苦しみの神聖な果実――(もっとも偉大なる芸術家のうちに存するところのもの)――ではない……。オリヴィエは「なんのためになるか……」という懶惰《らんだ》さを感じた。もう
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