しながら、事件がいっそう真剣になるの恐れがあるのを見ると、気をもみだした。そして彼はまずジャックリーヌの前でオリヴィエを冷笑し、つぎには、かなり辛辣《しんらつ》にオリヴィエを悪評した。ジャックリーヌは初めそれを笑って、そして言った。
「そんなに悪くおっしゃるものではありませんわ、お父さま。今に私があの人と結婚したがるようになったら、お父《とう》さまはお困りなさるでしょう。」
 ランジェー氏は大きな叫び声をたてた。彼女を狂人だとした。がそれこそ彼女をまったく狂人にならせる仕方だった。けっしてオリヴィエとは結婚させないと彼は宣言した。彼女はオリヴィエと結婚すると宣言した。覆《おお》いは裂けた。彼は彼女から無視されてることに気づいた。父親としての利己心から非常に憤慨した。もうオリヴィエにもクリストフにも二度と家へ足を入れさせないと、断然言い放った。ジャックリーヌは激昂《げっこう》した。そしてある朝、オリヴィエはだれか来たので扉《とびら》を開いてみると、令嬢が顔色を変え決心の様子で、飛び込んで来て言った。
「私を引き取ってください。両親は承知しません。でも私はあなたが望みです。私をどうにかしてください。」
 オリヴィエは狼狽《ろうばい》したが、しかし感動させられて、反対を唱えようともしなかった、幸いにもクリストフがそばにいた。普通なら彼がいちばん無法だった。がそのとき彼は二人を諭《さと》した。あとでどんな醜聞が起こるか、二人はどんな苦しい目に会うか、それを説き聞かした。ジャックリーヌは怒って唇《くちびる》を噛《か》みしめながら言った。
「そうなったら、死ぬばかりですわ。」
 その言葉はオリヴィエを恐れさせるどころか、かえって決心の臍《ほぞ》を固めさせることとなった。クリストフは一方ならぬ骨折りをして、二人の狂人に少し辛抱させることにした。絶望的な手段をとる前に、他の手段を講じてみる必要があった。ジャックリーヌは家に帰らなければいけなかった。そして、彼がこれからランジェー氏に会いに行って、二人のために弁護してみることにした。
 奇態な弁護人だった。彼が一言いい出すや否や、ランジェー氏は外に追い出そうとした。けれどつぎには、事態の滑稽《こっけい》さに心ひかれて、それを面白がった。そしてしだいに、相手の真剣さやまっ正直さや確信に、のまれていった。けれどもなお取り合おうとしないで、
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