と多く考えようとさえしますならば!……私たち女は弱い者なんです。私たちを助けてくださらなければいけません。つまずいた者に向かって、『俺《おれ》はもうお前のことなんか知らない、』などと言わないで、『しっかりおしよ、いっしょに抜け出そうよ、』と言っておやりなさらなければいけません。」

 二人は暖炉の前にすわって口をつぐみ、小猫《こねこ》がその間にうずくまっていた。三人ともじっと考え込んで、暖炉の火をながめていた。消えかかってる炎は、いつにない内心の興奮のために赧《あか》くなってるアルノー夫人の細《ほっ》そりした顔を、ひらひらと燃えたつごとに照らしていた。彼女はこんなに心を打ち開いたことを自分でも驚いていた。かつて彼女はこんなに多くしゃべったことがなかった。また今後とてもこんなにしゃべることはおそらくないだろう。
 彼女はクリストフの手の上に自分の手をのせて言った。
「あなたがたは子供をどうなさいますの?」
 それは彼女が初めから考えてる問題だった。彼女はいろいろ述べたてた。まるで人が違ったようになり、酔ってるかのようだった。しかし彼女はこの問題だけを考えてるのだった。クリストフの言葉を初め少し聞くや否や、彼女は心の中に一つの小説を組み立てていた。母親から見捨てられた子供のこと、その子供を育て上げてやる喜び、その小さな魂のまわりに自分の夢想や愛情を編み出す喜び、などを彼女は考えていた。そしてみずから言っていた。
「いやこれはいけないことだ。他人には不幸である事柄を、私が楽しんではいけない。」
 しかしそれは彼女の自由にはならなかった。彼女はつぎからつぎへと述べたてた。そして彼女の黙々たる心は希望に浸されていた。
 クリストフは言った。
「ええもちろん、僕たちは子供のことも考えました。かわいそうな子供です。オリヴィエも僕もそれを育てることはできません。女の人から世話してもらわなければなりません。だれか知人の女から助けてもらえたらと考えたんです……。」
 アルノー夫人はほとんど息もつけなかった。
 クリストフは言った。
「僕はあなたにそのことをお話しするつもりでした。ところがちょうど先ほどセシルがやって来ました。そして事情を知って、子供を見ると、彼女はたいへん心を動かされて、非常に喜ばしい様子をして、私に言うんです、『クリストフさん……。』」
 アルノー夫人は血の流れも止ま
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