ています。そして僕はまた避難所をも知っています。」
「どんな?」
「芸術です。」
「それはあなたがたにはいいかもしれませんが、私たち女には駄目《だめ》です。そして男のうちでさえ、芸術を利用できる人がどれだけありましょう?」
「あのセシルをごらんなさい。幸福ですよ。」
「あなたにはそれがわかるものですか。ほんとにあなたは早合点ばかりなさるんですね。あの女《ひと》が元気だからといって、いつまでもぐずぐず悲しんでいないからといって、悲しみを他人に隠してるからといって、それであなたはあの女《ひと》が幸福だとおっしゃるのでしょう。もとよりあの女《ひと》は、身体も丈夫だし戦うこともできますから、幸福には違いありません。けれどあなたはあの女《ひと》の戦いがどんなものだか御存じありません。人を欺きやすい芸術生活にあの女《ひと》が適してると思っていられるのですか。芸術! 書いたり演じたり歌ったりする光栄を、幸福の絶頂かなんかのようにあこがれてる憐《あわ》れな女たちがいることを、考えてもみますと!……彼女たちにはあらゆるものがかなり不足してるに違いありませんし、もう自分ではどういう愛情に身を委《ゆだ》ねてよいかわからないに違いありません……。芸術、もしもその他のいっさいのものを共にもっていないならば、芸術も何になりましょう? 他のことをすっかり忘れさせるようなものは、世の中にただ一つきりありません、それはかわいい子供です。」
「そして、子供があってさえ、まだ十分ではないじゃありませんか。」
「ええ、いつでもというわけにはいきません……。女というものはあまり幸福ではありません。一人前の女であることはむずかしいことです。一人前の男であるよりもずっとむずかしいことです。あなたには十分おわかりになりますまい。あなたがたは、精神的な熱情に、なんらかの活動に、没頭されることができます。不具になっても、そのためにかえって幸福になることができます。ところが健全な女は、苦しまなければ幸福にはなれません。自分自身の一部を窒息させるのは非人間的なことです。私たちは一方で幸福な場合は、他方で後悔しています。私たちは多くの魂をもっています。があなたがたには、一つの魂があるきりです。それも、女の魂よりずっと強くて、たいてい乱暴で、怪物じみてさえいます。私はあなたがたに敬服しております。けれどあまり利己的であられて
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