のはもっとも悪い殺害です。けれども、罪は罪を許しません。あなたもそのことはよく御存じでしょう。」
「知っています。あなたの言われることは道理です。僕はよく考えもせずに言ってるのです……。けれど、おそらく僕はそのとおりのことをやりかねないんです。」
「いいえ、あなたは自分で自分をけなしていらっしゃるのですよ。あなたはいい人ですもの。」
「僕は熱情に駆られると、やはり他人に劣らず残酷になります。ねえ、僕は先刻《さっき》どんなにか怒《おこ》ってたでしょう!……自分の愛する友人が泣くのを見ては、彼を泣かしてる者をどうして憎まずにいられましょう? 子供をも見捨てて情夫のあとを追っかけていった浅ましい女にたいしては、いくら苛酷《かこく》にしてやってもまだ足りないではないでしょうか。」
「そんなふうにおっしゃるものではありません、クリストフさん。あなたにはよくわからないのです。」
「えッ! あなたはあの女の肩をもたれるのですか。」
「私はあの女《ひと》をお気の毒に思います。」
「僕は苦しんでる人たちをこそ気の毒だと思うんです。人を苦しめる奴《やつ》らを気の毒だとは思いません。」
「じゃああなたは、あの女《ひと》もやはり苦しんだとはお考えになりませんか。単に浮気のせいで、子供を捨てたり生活を破壊したりされたのだと、お思いになりますの。あの女《ひと》自身の生活も破壊されたのではありませんか。私はあの女《ひと》をあまりよくは知りません。お目にかかったのも二度きりで、それもほんのついでにだったんです。私に親しい言葉もおかけになりませんでしたし、同情ももっていられませんでした。それでも私は、あなたよりもよくあの女《ひと》の心を知っています。悪い方《かた》でないことを確かに知っています。かわいそうな方ですわ。あの女《ひと》の心中にどういうことが起こったか、私には察しられます……。」
「りっぱな正しい生活をしていられるあなたに!……」
「ええ私に。あなたにはわからないのです。あなたはいい方だけれど、男ですもの。やさしくはあっても、みんな男の人と同じように、やはり頑固《がんこ》なのです――自分以外のものには少しも察しがないのです。あなたがた男の人は、自分のそばにいる女の心を、夢にも御存じありません。自己流に女を愛してはいらっしても、少しも女を理解しようとはされません。たやすく自分だけに満足してい
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