だと、彼らは彼に証明しかねなかった。彼らは彼を賞賛しながら自分自身を賞賛していた。そういうふうだったから、クリストフにたいする戦いは、彼と同業者たる作曲家連中の間に強い同感を得た。彼らは彼に罪もない右のような「空騒《からさわ》ぎ」を憤慨していた。そうでなくとも彼らは彼の音楽を好まなかった。思想に満ち満ちていて、創造的幻想の表面上の混乱さに従って、多少拙劣にその思想を使用してる者にたいし、自分では思想をもっていないが、学び知った形式に従ってたやすく思想を表現する者がいだく、自然の憤りを、多くの者はクリストフにたいしていだいていた。書く術《すべ》を知らないという非難が、それらの写字生どもによって幾度となく彼に発せられた。彼らにとっては、文体というものは、食堂の処法のうちに、思想が投げ入れられる料理の鋳型のうちに、存してるのであった。クリストフのもっともよい味方たちは、彼を理解しようとは努めなかった。彼から与えられる善のために単純に彼を愛していたので、彼を理解する唯一の人々となっていた。ところがそういう人たちは、世に名を知られていない聴衆にすぎなくて、問題にたいする発言権をもっていなかった。クリストフに代わって勇敢に答弁し得る唯一の者――オリヴィエは、当時彼から離れていて、彼を忘れてるかのようだった。それでクリストフは、敵と賞賛者との手中にあった。その賞賛者どもも、争って彼に害ばかり与えていた。クリストフは厭《いや》になって、少しも答え返さなかった。大新聞を足場として彼に下されてる判決文、無知と自身の無事とから来る傲慢《ごうまん》さをもって芸術を指導せんとする、僭越《せんえつ》な批評家どもの判決文、それを彼は読んでも、ただ肩をそびやかしながら言った。
「俺《おれ》を裁《さば》くがいい。俺も貴様を裁いてやる。百年たってから顔を合わせようじゃないか!」
しかし当分のうちは、悪口が時を得ていた。そして公衆は例によって、それらのもっともくだらない破廉恥な非難を、ただ呆然《ぼうぜん》として迎えていた。
クリストフは、自分の地位がかなり困難になってることに気づかないらしく、ちょうどそういうときに自分の出版者とも仲違《なかたが》いした。とは言え彼は、そのヘヒトを恨む筋はないはずだった。ヘヒトは彼の新しい作品を几帳面《きちょうめん》に出版してくれたし、商売にかけては正直だった。もちろ
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