きりわかっていた。そして実際、苦悩がやってくるのを見ないでも、不意にそのために圧倒せられた。すると不幸だというばかりでは済まなかった。自分の不幸をみずから責め、自分の言葉や行為や正直さなどを批判し、他人をよしとし自分を不正とせざるを得なかった。心臓が胸の中でどきどきし、痛ましいほどもがき苦しみ、息がつけなかった。――アントアネットが死んでからは、おそらくその死のおかげで、病人の眼や魂をさわやかにする曙《あけぼの》の光に似た、なつかしい故人から射《さ》す和《なご》やかな光明のおかげで、オリヴィエは、それらの悩みから脱することはできなかったとしても、少なくともそれをあきらめそれを押えることができるようになった。彼のそういう内心の闘《たたか》いに気づく者はあまりなかった。彼はその恥ずかしい秘密を、虚弱な不均衡な身体の狂的な懊悩《おうのう》を、自分のうちに秘めていた。その懊悩を統御することはできないが、しかしそれから害せられはしないで、ただじっと見守っていた、自由な朗らかな知力が――「際限なく[#「際限なく」に傍点]擾乱《じょうらん》する心に残存する中心の平穏[#「する心に残存する中心の平穏」
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