が病気であることを思い出した。その心を落ち着かせようとし、無理に腕を蒲団《ふとん》の中に入れさせ、肩の上に毛布をかけてやり、そしてやさしく眼をふいてやり、その枕頭《ちんとう》にすわった。それからじっと顔をながめた。
「だから、」と彼は言った、「僕は君を知ってたのだ。初めて会った晩から君に見覚えがあった。」
(彼が話しかけてるのは、そこにいる友へかあるいはもう世にない彼女へか、どちらともわからなかった。)
「だが君は、」と彼はやがてつづけた、「それを知ってたんじゃないか。……なぜそう言わなかったんだい?」
オリヴィエの眼をかりてアントアネットが答えた。
「私には言えませんでした。あなたのほうで察してくださるはずでした。」
二人はしばらく黙っていた。それから夜の静けさのなかで、オリヴィエはじっと床に横たわりながら低い声で、手をとってくれてるクリストフへ、アントアネットの話をした。しかし、言ってならないこと、彼女が包み隠していた秘密――彼が告げるまでもなくクリストフはたぶんそれを知っていたろうが――それだけは、口に出さなかった。
それ以来、アントアネットの魂が二人を包み込んでしまっ
前へ
次へ
全333ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング