聞雑誌とを分有する、政治的諸教会の岩石の間に生えてる、空気の欠乏した植物に似ていた。また同様に彼は、あらゆる文学的党派から離れ見捨てられていた。文学者仲間に一人の友人もなかったし、友人のありようがなかった。彼はそれらの知的な魂の冷酷さや無情さや利己主義に悩まされた――(ただほんとうの天稟《てんぴん》に導かれてる者や熱心な学術的研究に没頭してる者など、ごく少数の人々については例外だった。)頭脳――小さな頭脳をもってるときに――頭脳のために心を萎縮《いしゅく》させた者こそ、悲しむべきである。温情は少しもなく、鞘《さや》に納めた短刀のような知力があるのみである。われわれはその知力にいつ喉《のど》を刺されるかわからない。不断に武装していなければならない。自分の利益のためにではなしに美しいものを愛する善良な人々――芸術界の外部に生きてる人々、などにしか友情の可能性はない。芸術界の空気は大多数の者には呼吸できない。生命の泉たる愛を失わずにそこに生きることができるのは、ただきわめて偉大なる人々のみである。
オリヴィエはただ自分一人を頼りにするのほかはなかった。それはごく心細い支持だった。彼にはあらゆる奔走がつらかった。自分の作品のために身を屈したくはなかった。阿諛《あゆ》的な追従《ついしょう》を見ると恥ずかしかった。たとえば、知名な劇場支配人は、青年作家らの卑怯《ひきょう》さに乗じて、召使にたいするよりもひどい態度を示していたが、それに向かって彼らは、やはり卑しい阿諛を事としていた。オリヴィエには、たとい生活問題に関するときでもそういうことができなかった。彼は自分の原稿を、劇場や雑誌の事務所に、郵送するか置いてくるかだけだった。その原稿は幾月も読まれないで放っておかれた。ところがある日彼は偶然に、中学時代の古い同窓の一人に出会った。愛すべき怠惰者《なまけもの》だったが、オリヴィエからいつも親切にたやすく宿題を作ってもらったことがあるので、今でもなお深い感謝の念を失わずにいた。文学のことは何にも知らなかったが、はるかに好都合なことには、文学者らに知人をもっていた。そして、金持で俗人だったので一種の見栄坊《みえぼう》から、内々文学者らの利用するところとなっていた。その男が自分の出資してるある大雑誌の幹部へ、オリヴィエのために一言口をきいてくれた。するとただちに、オリヴィエの埋もれた原稿の一つが掘り出されて読まれた。そして多くの躊躇《ちゅうちょ》の後に――(なぜなら、その作はある価値をもってるらしかったが、作者の名前は世に知られていないのでなんらの価値ももっていなかった)――ついに採用されることとなった。オリヴィエはその吉報を聞くと、もうこれで心配は終わったと思った。しかしそれは心配の始まりだった。
パリーでは、作品を受諾してもらうことは比較的たやすい。しかし作品を発表してもらうことは別事である。編集者らを機嫌《きげん》取ったりうるさがらせたり、それら小さな君王らの前にときどき伺候したり、自分が存在してることや必要なときにはいつでも困らしてやる決心でいることを彼らに思い出さしたりする、という才能を知らないときには、幾月も、場合によっては一生でも、待ちに待たなければならない。ところがオリヴィエは自分の家に閉じこもってることしか知らなかった。そして待ちくたびれてしまった。たかだか手紙を書くくらいなものだったが、それにはなんの返事も来なかった。いらいらしてもう仕事も手につかなかった。それは馬鹿げたことではあったが、理屈ではどうにもならなかった。彼はテーブルの前にすわり、落ち着かない悩みに沈んで、郵便の来る時間時間を待ちくらした。室から出て行っては、下の門番のところにある郵便箱に希望の一|瞥《べつ》を投げたが、すぐに裏切られてしまうのだった。散歩に出ても何にも眼にははいらず、もどって来ることばかり考えるのだった。そして、最終便の時間が過ぎてしまうとき、室の中の静けさを乱すものは頭の上の鼠《ねずみ》どもの荒々しい足音ばかりとなるとき、彼は編集者らの冷淡さに息づまる心地がした。一言の返事、ただ一言! それだけの恵与をも拒まれるのであろうか? けれども、それを彼に拒んだ者のほうでは、彼をどれだけ苦しめてるかは夢にも知らないでいた。人はそれぞれ自分の姿によって世界をながめるものである。心に生気のない人々は世界を乾燥しきったものと見る。そして彼らは、年若い人々の胸に湧《わ》き立つ期待や希望や苦悶《くもん》のおののきを、ほとんど思ってもみない。もしそれを思いやるとしても、飽満した身体の鈍重な皮肉さで、それを冷淡に批判してしまう。
がついに作品は発表された。オリヴィエはあまりに待たされたので、もうなんらの喜びをも感じなかった。それは彼にとっては死物だった。それで
前へ
次へ
全84ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング