とはまったく異なっていた。
 クリストフはフランスについてあまりに無知だったので、その特質の不変さをよく見てとることができなかった。この豊かな景色のうちで彼がことに驚いたものは、土地の極端に細かい区分だった。オリヴィエが言ったように、各人が自分の庭をもっていた。そして各地面は、壁や生籬《いけがき》やあらゆる種類の仕切りで、たがいに分かたれていた。たかだか、共通の牧場や森が散在してるきりであり、あるいは、川の一方に住む人々が、対岸の人々よりも、たがいに接近させられてるくらいのものだった。そして各人が自分の家に閉じこもっていた。そういう嫉視《しっし》的な個人主義は、たがいに隣り合って数世紀間暮らしてきたあとにも、衰えるどころかかえって強くなってるかのようだった。クリストフは考えた。
「彼らはなんと一人ぽっちのことだろう!」

 クリストフとオリヴィエとが住んでる家は、そういう意味でもっとも特長あるものだった。それは小世界の縮図であった。種々の要素をたがいに結合する何物もない、正直勤勉な小フランスであった。六階建ての古いぐらぐらした家で、一方に傾いており、床板《ゆかいた》はきしり、天井は虫に食われていた。屋根裏に住んでるクリストフとオリヴィエとの部屋には、雨漏りがしていた。どうにか屋根を繕うために、職人を呼ばなければならなくなっていた。職人らが頭の上で仕事したり話したりするのが、クリストフの耳に響いた。ことにその一人は、クリストフを面白がらせまた煩《うる》さがらせた。その男はたえず休みなしに、一人で口をきき、笑い、歌い、駄洒落《だじゃれ》を並べ、つまらぬ口笛を吹き、独語《ひとりごと》を言い、始終働いていた。何かするごとにかならずそれを口に出した。
「も一本|釘《くぎ》を打ってやれ。道具はどこにあるんだ? 釘を一本打ったぞ。二本打ったぞ。も一つ金槌《かなづち》でとんと! そら、これでよし……。」
 クリストフが演奏するとき、彼はちょっと黙って耳を傾け、それからまたますます口笛を吹きたてた。面白い楽節になると、金槌でたたきながら屋根の上で調子をとった。クリストフは向かっ腹をたてて、しまいには椅子《いす》の上にあがり、その屋根裏の風窓から顔を出して、怒鳴りつけてやろうとした。しかし、その男が屋根にまたがり、善良な快活な顔つきをし、頬《ほお》をふくらまして釘《くぎ》を頬張《ほおば
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