正や憎悪の中にあってさえ楽天的になりがちな、あふれるほどの活力と心身の頑健《がんけん》さとを、多少オリヴィエのうちに注ぎ込んだ。そしてさらに多くのものをオリヴィエから取り出した。それが天才の法則である。天才はいかに多く与えても、それよりさらに多くのものを常に愛のうちから奪い取る。なぜなら、われは[#「われは」に傍点]獅子《しし》なればなり[#「なればなり」に傍点]だからであり、天才だからである。天才ということは半ばは、自分の周囲の偉大なものを吸い取りそれをさらに偉大になす、ということにある。富は富者に集まると下世話《げせわ》に言われている。力は強者に集まるものである。クリストフはオリヴィエの思想で自分を養った。その落ち着いた知力、超然たる精神、暗黙のうちに理解し見きわめる遠大な見解、などを吸収した。しかし友のそういう長所は、彼のうちに、豊饒な土地に、移植されると、まったく異なった力で生長していった。
二人はたがいに相手のうちに見出されるものに驚嘆していた。彼らはおのおの、これまで自分でも気づかなかった巨大な財宝をもち寄った。それはたがいの民衆の精神的な宝だった。オリヴィエのほうは、フランスの広範な教養と心理的才能とであった。クリストフのほうは、ドイツの内的音楽と自然にたいする直覚力とであった。
クリストフには、オリヴィエがフランス人であることを理解できなかった。オリヴィエは彼が見たどのフランス人にもあまり似寄っていなかった。彼はオリヴィエに会う前には、リュシアン・レヴィー・クールをフランス近代精神の典型だと見なしがちだった。が実は、レヴィー・クールはその漫画にすぎないのだった。そして今、レヴィー・クールよりもいっそう思想的に自由であり、しかもなお純潔であり堅忍である者らが、パリーにもいるということを、彼はオリヴィエの実例によって教えられた。けれど、オリヴィエやその姉はどうもまったくのフランス人ではないと、彼はオリヴィエに証拠だててやりたかった。
「お気の毒だが、」とオリヴィエは言った、「君はフランスについて何を知ってるんだい?」
クリストフは抗弁して、フランスを知るためにいかに骨折ったかを述べたてた。ストゥヴァン家やルーサン家などの集まりで出会ったフランス人を列挙した。ユダヤ、ベルギー、リュクサンブール、アメリカ、ロシア、近東、などの生まれのフランス人や、また
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