ィろして、大声に談笑しながら煙草《たばこ》を吹かしていた。ルイザにはその二人の姿は見えなかった。けれど、その日夫が家にいることや、祖父が上|機嫌《きげん》であることなどが、非常にうれしかった。彼女自身は下の室にいて、食事の支度をしていた。りっぱな御馳走《ごちそう》だった。彼女はそれを自分の眼の玉ほど大事に見守っていた。びっくりするようなものがあった。大栗《おおぐり》の菓子があった。子供がさぞ喜びの声をたてるだろうと、聞かないうちから楽しんでいた……。子供、彼はどこにいるのかしら? 階上《うえ》にいるのだった。その音が聞こえていた。ピアノを稽古《けいこ》していた。何をひいてるのか彼女にはわからなかった。けれど、そのいつもの小さな妙音を耳にしたり、子供がそこにごくおとなしくすわってるのがわかったりするのが、彼女にはうれしかった……。なんという美《うる》わしい日だろう! 馬車の陽気な鈴音が道を通っていた……。ああ実にいい! そして焼き肉は? 窓から外を見てる間に焦げやしなかったかしら。ごく好きではあるがまた恐《こわ》くもある祖父から、怒られ叱《しか》られはすまいかと、彼女はびくびくしていた……。が仕合わせにも焼き肉は無事だった。そら、すっかりでき上がったし、食卓も整った。彼女はメルキオルと祖父とを呼んだ。彼らは威勢よく返辞をした。それから子供は?……もうひいていなかった。先刻からピアノの音はやんでいたが、彼女は気がつかないでいた……。「クリストフ!」……どうしてるのだろう? なんの音も聞こえなかった。いつも彼は食事に降りてくるのを忘れがちだった。父がまた怒鳴りつけるかもしれなかった。彼女は大急ぎで階段を上がっていった……。「クリストフ!」……返辞がなかった。彼女は彼の勉強室の扉《とびら》を開いてみた。だれもいなかった。室は空《から》だった。ピアノには蓋《ふた》がしてあった……。彼女は心配になった。彼はどうなったのかしら? 窓が開いていた。あ、落ちたのじゃないかしら!……彼女ははっとした。身を乗り出してながめてみる……。「クリストフ!」……どこにもいない。彼女は方々の室を見て回る。下から祖父が大声に言っている。「おいでよ、心配することはない。きっとあとから出て来る。」彼女は降りて行きたくない。彼がその辺にいることはわかっている。冗談に姿を隠して、母を心配させようとしてるのだ
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