ュないからではなかった。議論に興味がないからだった。その議論の間彼はただクリストフのことばかり考えていた。彼は溜息《ためいき》をつきながら言った。
「君は僕が君を愛してるほどには僕を愛してくれないんだね。」
 クリストフはやさしく彼の手をとった。
「オリヴィエ、」と彼は言った、「僕は君を自分の生以上に愛してるのだ。しかし許してくれたまえ、生[#「生」に傍点]以上には、両民族の太陽以上には、君を愛していないのだ。君たちの誤った進歩に引きずられて闇夜《やみよ》の中に陥るのが、僕は恐ろしいのだ。君たちのあらゆる思い諦《あきら》めの言葉の下には、深淵《しんえん》が潜んでいる。しかし行動のみが、たとい殺害的行動でさえ、唯一の生きてるものだ。われわれはこの世において、焼きつくす炎かあるいは闇夜か、その一つを選ぶばかりである。薄暮に先立つ夢想にはいかに愁《うれ》わしい甘さがあろうとも、僕は死の先駆者たるその平穏を望まない。無窮な空間の静けさを僕は恐れる。火の上に新たな薪束《まきたば》を投じたまえ。もっと、もっと、投じたまえ。必要なら僕をもいっしょに投ずるがいい……。僕は火が消えることを望まない。もし火が消えたら、われわれはもうおしまいだ、現存するすべてのものはもうおしまいだ。」
「僕は君のそういう声を知ってる、」とオリヴィエは言った、「それは過去の野蛮の底から来る声だ。」
 彼は棚《たな》からインド詩人の書物を一つ取って、クリシュナ神の崇厳な激語を読み上げた。

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 奮い起《た》てよ、しかして決然と戦えよ。快楽をも苦痛をも、利得をも損失をも、勝利をも敗北をも、すべて意に介せずして、全力をもって戦えよ……。
[#ここで字下げ終わり]

 クリストフは彼の手からその書を奪い取って読んだ。

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 ……およそ何物も予に活動を強《し》うるものなく、何物も予に属せざるものなけれども、予はなお活動を捨てざるなり。もし予にして、不断|不撓《ふとう》なる活動もて、人間にその則《のっと》るべき実例を与うることなくんば、人間はみな滅び失《う》せん。もし予にして、たとい一瞬たりとも活動を止めなば、世界は混沌《こんとん》のうちに陥りて、予は人生を滅ぼすものとならん……。
[#ここで字下げ終わり]

「人生、」とオリヴィエは繰り返した、「人生とはなんだろう?」

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