ェら、当惑そうな様子で立ち止まりもしないで通り過ぎた。それに反して、幾年となく口もきき合わなかった人たちが、突然接近し合っていた。ある夕方、オリヴィエはクリストフを窓ぎわに呼んで、黙って下の庭をさし示した。そこには、エルスベルゼ兄弟がシャブラン少佐と話していた。
 クリストフは、人々の精神の中に起こった革命に驚くだけの余裕がなかった。彼は自分のことでいっぱいになっていた。彼は心が転倒して、自分でどうにも押え得なかった。クリストフよりいっそう心乱れるはずのオリヴィエのほうが、いっそう落ち着いていた。オリヴィエ一人だけが感染を受けていないらしかった。近く起こるべき戦争にたいする期待と、予想せずにはいられない国内の分裂にたいする恐れとに、彼はすっかり気圧《けお》されてはいたけれど、早晩戦いを始めようとしてる二つの相反する信念が、共に偉大なものであることを知っていた。そしてまた、人類の進歩のための経験場となるのはフランスの役目であること、すべて新しい観念が花を開くためには、血で注がれなければならないこと、などをも知っていた。が彼自身としては、その白兵戦に加わることを拒んでいた。この文明の格闘のなかで彼は、「私は愛のために生まれました[#「私は愛のために生まれました」に傍点]、憎みのために生まれたのではありません[#「憎みのために生まれたのではありません」に傍点]、」というアンチゴーネの銘言を繰り返したがっていた。――愛のために、そして、愛の別形である叡智《えいち》のために、生まれたのだった。クリストフにたいする情愛からだけでも、彼はおのれの義務を明らかに示された。幾百万の人々が憎み合おうとしてるときにさいして彼は、自分とクリストフとのような二つの魂の義務ならびに幸福は、この擾乱《じょうらん》のうちにおいてたがいに愛し合い完全な理性を保持することだと、感じていた。一八一三年にドイツをフランスへ飛びかからしめたあの解放的|憎悪《ぞうお》の運動に、加わることを拒んだゲーテのことを、彼は思い起こしていた。
 クリストフはそれらのことを感じてはいたが、少しも落ち着けなかった。彼はドイツから言わば脱走してきて、ドイツへ帰れない身であり、老友シュルツがあこがれてるあの十八世紀の偉大なドイツ人らがもっていたヨーロッパ的思想に育てられ、軍国的で営利的な新しいドイツの精神を軽蔑《けいべつ》して
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