笊ィや面影にとり囲まれていた。そしてそれらをあまり見つめてるために、娘の姿がもう浮かばなくなった。死んだ面影は生きた面影を殺してしまった。もう娘の姿が見えなくなった。そして彼女はなお固執した。ただ娘のことばかり考えたがった。そのためについには、もう娘のことも考えられなくなった。死の仕事を完成さしてしまった。そこで彼女は、心は化石し、涙はなくなり、生命の泉は涸《か》れはてて、凍りついたようになった。彼女には宗教も助けとならなかった。宗教上の務めを行なってはいたが、それも好んで行なうのではなく、したがって生きた信仰をもって行なうのではなかった。ミサのために金を出してはいたが、その仕事に少しも進んで加わりはしなかった。彼女の全宗教は、も一度娘を見たいというただ一つの考えの上に立っていた。その他のことはどうでもよかった。神は? 神も何になろう。も一度娘を見ること……。そして彼女はそのことをもなかなか信じられなかった。それを信じたがり、堅く必死にそれを望んではいたが、果たしてできるかを疑っていた。彼女は他の子供たちを見るに堪えられなかった。彼女は思った。
「どうしてあの子供たちは死ななかったのだろう?」
 その町内に、身長から物腰から彼女の娘そっくりの少女が一人いた。その小さな垂髪《おさげ》をしてる後ろ姿を見たとき、彼女は震え上がった。彼女は娘のあとを追っかけた。そして、娘が振り向いて、あの子[#「あの子」に傍点]でないことがわかると、彼女はその娘を絞め殺してでもやりたかった。それからまた、エルスベルゼの娘たちは、ごく静かだったし教育によってよく躾《しつ》けられていたけれど、それにもかかわらず彼女は、その娘たちが上の階で騒々しい音をたてると不平言っていた。娘たちが室の中をあちこち歩きだすと、彼女は女中をやって静かにしてほしいと申し込んだ。クリストフはあるとき、その娘たちといっしょに帰ってきて彼女に出会ったが、彼女からきびしい眼つきでじろりと見られたのにびっくりした。
 夏のある晩、この生きながら死んでるとも言える夫人は、暗がりのなかに窓ぎわにすわって、むなしくぼんやりしていたが、クリストフのひくピアノの音が聞こえてきた。クリストフはいつもその時刻になると、ピアノをひいて夢想にふけるのが常だった。ところがその音楽は、彼女がうっとりしてる空寂の境地を乱して、彼女をいらだたせた。彼
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