「する、同じような嫌悪《けんお》の念をいだいていた。ほとんどすべての人々が、おのが民族に裏切られた魂についての、寂しいかつ矜《ほこ》らかな意識をもっていた。そしてそれは、個人的|怨恨《えんこん》の事柄ではなかった。免職された官吏や、用途のない精力や、傷ついた獅子《しし》のように自分の土地に隠退して死んでゆく古い貴族など、すべて権力や活動的生活から追われてる、敗北した人々や階級の怨嗟《えんさ》ではなかった。それは、一般的な深い暗黙な精神的反抗の感情だった。軍隊や司法界や大学や官省や、政府機関のあらゆる主要な部分に、至るところに存在していた。しかしそれらの人々は行動してはいなかった。行動しない前から失望していた。彼らは繰り返し言っていた。
「しかたがないことだ。」
 彼らは悲しい事柄を恐れて、それから思考や談話をそらしていた。そして、家庭生活のなかに隠れ家を求めていた。
 彼らが政治上の行動からだけ引退したのなら、まだしもだった。しかし日常の行動の範囲内においてさえ、それら誠実な人々はだれもみな行動の興味を失っていた。彼らは軽蔑《けいべつ》してる悪者どもとの賤《いや》しい交際は大目に見ていたが、それと闘《たたか》うことは無益だと前もって考えていて、なるべく闘いをしないように用心していた。たとえば芸術家らは、ことにクリストフがよく知ってる音楽家らは、彼らに勝手なことをする新聞雑誌のスカラムーシュどもの厚顔を、なぜ反抗もしないで堪え忍んでいたのか。多くの愚人どもがいて、およそ人の知り得るあらゆる事に[#「およそ人の知り得るあらゆる事に」に傍点]無知であるのが知れ渡っていながら、それでもやはり、およそ人の知り得るあらゆる事に[#「およそ人の知り得るあらゆる事に」に傍点]主権的な力を与えられていた。彼らは自分の論説や書物を書くだけの労さえ取らなかった。彼らには秘書どもがついていた。もし魂をもってたとしたら、パンや女のためにその魂をも売りかねない、憐《あわ》れむべき飢えた乞食《こじき》どもがついていた。それはパリーでは、だれ知らぬ者のない事柄だった。それでも彼らはなお羽振りをきかせ、芸術家たちを上から見下していた。彼らの記事のあるものを読んだとき、クリストフは憤激の叫びを発した。
「おう、卑怯者《ひきょうもの》が!」と彼は言った。
「君はだれにたいし言ってるんだい。」とオリヴィエ
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