、》さに、口をきくことを恐れる気分に、いつしかとらわれていって、わずかな行動もますますなしがたくなり、しだいに無言無為のうちに陥っていった。それをみずから感ずると、悲しくはあったが、しかしもう反抗しようとはしなかった。ところがクリストフと出会ったことは、彼にとって大なる支持となった。その隣人が示す年少気鋭な熱意や率直なやさしい同情は、また時としては不謹慎なその質問は、彼にとって非常にためになった。クリストフは彼を強《し》いて、生者の仲間に立ちもどらしめた。
電気職人のオーベルが、あるときクリストフの室で、この牧師と出会った。彼は牧師の姿を見るとびっくりした。嫌悪《けんお》の情をなかなか隠し得なかった。その最初の感情を押えたあとでもなお、この法服の男と顔を合わせると、いつもある気づまりな変な当惑を覚えた。彼にとっては、法服の男などはなんと言ってよいかわからない人物なのだった。それでも、教養ある人々と話をするうれしさから、反僧侶《はんそうりょ》主義の気持を制してしまった。彼はヴァトレー氏とコルネイユ師との間の親しげな調子に驚いた。民主的な牧師と貴族的な革命家とを見出したことにも、やはり同じく驚いた。それは彼がこれまで得てるあらゆる観念を覆《くつがえ》すものだった。彼は社会上のいかなる部類に彼らを置くべきかを迷った。彼は人を理解せんがために分類する必要を感じてたのである。ところが、アナトール・フランスやルナンのものを読み、それについて正当な正確な言葉を平気でくだしてる、この牧師の平穏な自由さは、いかなる所に置いてよいか容易にわからなかった。学問上の事柄においては、命令する人々からよりも知識ある人々から、コルネイユ師は導かれるのを常としていた。彼は権力を尊んではいた。しかしそれは彼にとっては、学問と同種のものではなかった。肉体と精神と慈愛、それは三つの部門であって、崇高な梯子《はしご》の、ヤコブの梯子の、三つの段であった。――善良なオーベルにはもとより、そういう精神状態を理解しがたかった。コルネイユ師はクリストフに、オーベルを見ると昔見たフランスの農夫たちのことを思い出すと、静かに話してきかした。一人の若いイギリスの女が、農夫たちに道を尋ねていた。彼女はイギリス語を話していた。農夫たちはそれがわからなかったけれど耳を傾けていた。それから彼らはフランス語を話した。彼女にはそ
前へ
次へ
全167ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング