「ものだ。」
「ことに愚昧《ぐまい》者ではありたくないものだ。」とオリヴィエは言った。「いちばん古い枝を少しく切り落とすのだと称しながら、すでに病弱なわれわれの文明の幹を痛めたくないものだ。もし不幸にも、ユダヤ人らがヨーロッパから追われるならば、ヨーロッパはそのために知力と活動とが貧しくなって、全然崩壊してしまうかもしれない。ことにわれわれのうちにあっては、フランスの活動力の現今のような状態では、ユダヤ人らを放逐することは、十七世紀における新教徒らの放逐よりも、国民にとっていっそう危険な出血となるかもしれない。――もちろん彼らは現在では、その真価に不相応な地位を占めている。彼らは現今の政治および道徳上の無政府状態に乗じている。生来の趣味からまた好都合なところから、この状態の助長に少なからず力を尽くしている。すぐれた者らはあの敬すべきモークのように、フランスの運命と彼らユダヤ人の夢想とを、不都合にもごく真面目《まじめ》に同一視している。そのユダヤ人の夢想がまた、われわれにとって有益であるよりもむしろ多くは危険だ。しかし、彼らがフランスを自己流にこしらえ上げたがってるからといって、彼らを悪く思ってはいけない。それは彼らがフランスを愛してるからなのだ。たとい彼らの愛が恐るべきものであるとしても、われわれは自分自身を守りさえすればいいし、彼らをわれわれのうちでの本来の地位たる第二流の列に置きさえすればいい。と言って僕は、彼らの民族がわれわれの民族より劣ってると思ってるのではない。――(すべてかかる民族の優劣問題はつまらない不快なことだ。)――しかしながら、われわれの民族とまだ融和していない他の民族が、われわれに何が適してるかをわれわれ以上によく知ってると主張するのは、容認しがたいことだ。その民族がフランスでよくやってゆくことには、異議はない。しかし、フランスをユダヤ国たらしめようと望んではもらいたくない。知力|秀《ひい》でた強固な政府があって、ユダヤ人らをその本来の地位にすえ得るならば、フランスを偉大ならしむるもっとも有用な道具の一つと彼らをなすだろう。そして、われわれのためになると同時に彼らのためにもなるだろう。かかるそわそわした不安定な神経過敏な者らには、彼らをしめくくる法律の必要があり、彼らを制御する強い正しい首長の必要がある。ユダヤ人は女のようなものだ。人から手綱を
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