逑さをいかに隠そうとしても押えきれなかった。そして二人はなかなか理解し合えなかった。
 クリストフは、ヴェールを訪問したあと、感謝といらだちとを覚えながら、自分の屋根裏の部屋にもどって来たが、ちょうどその日、オリヴィエへ新しい仕事をもって来てくれてる善良なモークから、リュシアン・レヴィー・クールの筆になった、彼の音楽に関するありがたくない雑誌記事を見せられた。それは明らさまの非難ではなかったが、侮辱的な親切から書かれたもので、巧妙な揶揄《やゆ》によって、彼が忌みきらってる三、四流の音楽家のうちに、彼を列して喜んでいた。
「見たまえ、」とクリストフは、モークが帰った後オリヴィエに言った、「僕たちはいつもユダヤ人どもを相手に、ユダヤ人どもばかりを相手にしてるじゃないか。こんなふうでは僕たちまでユダヤ人になってしまいそうだ。そうじゃないか。僕たちはいつもユダヤ人どもをひきつけてると言われたってしかたない。僕たちの行く手にはどこにも、敵となり味方となってユダヤ人どもばかりいる。」
「それは彼らが他の者より知力すぐれてるからだ。」とオリヴィエは言った。「自由な精神の人が新しい事や生きた事柄を語り得る相手は、われわれのうちではほとんどユダヤ人らばかりなんだ。他の者どもは、過去のうちに、死んだ事物のうちに、じっと閉じこもっている。があいにくその過去は、ユダヤ人らにとっては存在しない、あるいは少なくとも、われわれが考えるのと同様なものではない。彼らを相手にしては、われわれは今日のことしか話すことはできない。ちょうど、同民族の者らとわれわれが過去のことしか話し得ないのと同じだ。あらゆる事柄におけるユダヤ人の活動を見てみたまえ、商業に、工業に、教育に、学問に、慈善事業に、芸術に……。」
「芸術のことは措《お》こうじゃないか。」とクリストフは言った。
「僕は彼らがなすことにいつも同感してると言うのじゃない。往々|嫌悪《けんお》の情さえ覚ゆることがある。が少なくとも、彼らは生きているし、生きてる人々を理解し得るのだ。われわれは彼らなしに済ましてゆくことはできない。」
「大袈裟《おおげさ》なことを言うなよ。」とクリストフは嘲《あざけ》り顔に言った。「僕はユダヤ人なしにやってゆけるよ。」
「おそらく生きてはゆけるだろうよ。しかし君の生命や君の作品が、だれにも知られずに終わったら、それがなんの
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