無経験なために――(彼女はいつも業務から遠ざかっていたので興味ももたなかった)。
彼らには二人の子があった。アントアネットという娘と、それより五つ年下のオリヴィエという息子《むすこ》とだった。
アントアネットはきれいな栗《くり》色髪の子で、上品で正直なフランス式の小さな丸顔、敏捷《びんしょう》な眼つき、つき出た額《ひたい》、ほっそりした頤《あご》、まっすぐな小さな鼻――フランスのある古い肖像画家がいみじくも言ったとおり、「きわめて美しい細い上品な鼻の一つ、顔つき全体を活気だたせるような、また、話したり聴《き》いたりするにつれて内部に起こる微細な感情を示すような、あるかすかな細かい動きを見せる鼻、」であった。彼女は快活さと無頓着《むとんじゃく》さとを父から受けていた。
オリヴィエは花車《きゃしゃ》な金髪の子で、父に似て背は低かったが、性質は父とまったく異なっていた。彼の健康は、幼いころたえず病気をしたために、ひどく痛められていた。それだけにまた家じゅうの者から大事にされていたけれども、身体の虚弱なせいで早くから、死を恐れ生活力の弱い憂鬱《ゆううつ》な夢想的な少年となってしまった。
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