たのかわからなくなった。彼は自分の思想の囁《ささや》きのうちに、また、ゆるやかにたってゆく田舎《いなか》の単調な日々の親しい感覚のうちに、ぼんやり浸り込んでいた。一部分にしか人の住んでいない半ば空《むな》しい大きな家、大きな恐ろしい窖《あなぐら》や屋根裏、様子ありげに閉《し》め切られてる室、閉ざされてる雨戸、覆《おお》いのしてある家具、布が掛けられてる大鏡、包まれてる燭台《しょくだい》、または、変に気をひく微笑を浮かべてる古い家族の肖像、あるいは、高潔でかつ猥《みだ》らな勇武を示してる帝国式の版画、娼家《しょうか》におけるアルキビアデスとソクラテス[#「におけるアルキビアデスとソクラテス」に傍点]、アンチオキュスとストラトニス[#「アンチオキュスとストラトニス」に傍点]、エパミノンダスの話[#「エパミノンダスの話」に傍点]、乞食《こじき》のベリザリウス[#「のベリザリウス」に傍点]……。家の外には、真向《まむ》かいの鍛冶《かじ》場で蹄鉄《ていてつ》を鍛える音、鉄砧《かなしき》の上に落ちる金槌《かなづち》のとんちんかんな踊り、鞴《ふいご》のふうふういう息使い、蹄《ひづめ》の焼かれる匂《に
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