まらなかった。が彼の姿を見るとすぐに、彼から見られないように身を隠した。

 ついに、二人はある晩知人の客間に行き合わして、そこでクリストフはオリヴィエを認めた。オリヴィエは彼から遠のいていて、何にも言わなかった。しかし彼のほうをながめていた。そしてアントアネットがその晩、オリヴィエといっしょにいたに違いない。クリストフは彼女の姿を、オリヴィエの眼の中に認めたのだった。その突然現われた彼女の面影に誘われて、クリストフは客間を横切って近寄っていった、若いヘルメスのように幸《さち》ある霊の愁《うれ》わしげなやさしい会釈をもたらしてる、その未知の使者のほうへ。



底本:「ジャン・クリストフ(三)」岩波文庫、岩波書店
   1986(昭和61)年8月18日改版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2008年1月27日作成
2009年12月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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