人とも、すぐに、死ぬよりほかはない、とオリヴィエはくり返した。そして窓をさし示した。アントアネットもまたその痛ましい願望を感じていた。しかし彼女はそれと闘《たたか》った。彼女は生きたかった……。
「生きて何になるんだ?」
「この方《かた》のためによ。」とアントアネットは言った(彼女は母を指《さ》し示していた。)――「この方はやはり私たちといっしょにいらっしゃるわ。考えてごらんなさい……私たちのためにさんざんお苦しみなすったのだから、いちばんひどい苦しみ、私たちが不仕合わせで死ぬのをご覧なさるという苦しみは、ああ、おかけしないようにしなければいけません……。」と彼女は感情に激して言った。「……それに、そんな諦《あきら》め方をしてはいけません! 私はいやよ。私はどうあっても逆《さか》らうわ。あなたがいつかは幸福になることを、私望んでるのよ。」
「幸福になるものか!」
「いいえきっとなってよ。私たちはあんまり不幸だったわ。今に変わってくるわ。変わるに違いないわ。あなたは生活を立ててゆき、家庭をもち、幸福になるでしょう。それが、それが私の望みよ!」
「どうして生きてゆけるの? 私たちにはとてもできない……。」
「できますとも。なんだと思ってるの? あなたが自活できるようになるまでの間のことよ。私が引き受けるわ。見ててごらんなさい、私がやってみせるから。ああ、お母《かあ》さんが私のするとおりに任しててくだすったら、もうちゃんとできてたのに……。」
「何をするつもりなの? 私は姉《ねえ》さんに恥ずかしいことをさせたくない。それに姉さんにはできやしない……。」
「できますよ……。働いて生活をするのは――正直でさえあれば――少しも恥じることはありません。心配しないでちょうだい、お願いだから。見ててごらんなさい。万事うまくいきます。あなたは幸福になります。私たちは幸福になります。ねえオリヴィエ、この方[#「この方」に傍点]も私たちのせいで幸福になります……。」
二人の子供だけが母の柩《ひつぎ》の供をした。二人はたがいに同じ心から、ポアイエ家へは何にも知らせないことにした。ポアイエ家の人たちは、二人にとってはもはやないも同様だった。母にたいしてあまりに残忍だったし、母の死の一原因だったのである。門番の女から他に親戚はないかと聞かれたとき、二人は答えた。
「だれもありません。」
あら
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