らはますます気が滅入《めい》った。そして、往来や商店や料理屋などどこででも、彼らはいつも驚きあきれていたので、皆からだまされてばかりいた。彼らが求めるものはどれもこれも法外の価だった。あたかも手に触れる物をすべて黄金になす術《すべ》を知ってるかのようだった。ただ、その黄金の代を払うのは彼らだった。彼らはこの上もなく拙劣で、また身を守るだけの力をももっていなかった。
 ジャンナン夫人は、もはや姉へはあまり希望をかけていなかったけれども、招待された晩餐《ばんさん》についてなお幻を描いていた。彼らは胸をどきつかせながら招待におもむいた。すると、親戚としてではなく客として迎えられた――がもとよりその晩餐には、儀式ばった接待以外の金目《かねめ》はかけられていなかった。子供たちはその従兄姉《いとこ》らに会った。ほとんど同じくらいの年ごろだったが、両親に劣らずよそよそしい態度だった。娘の方は、優雅でなまめかしくて、高ぶった丁寧な様子をし、わざとらしい甘っぽい素振りをして、気取った口調で話しかけてはジャンナンの子供たちをまごつかせた。息子《むすこ》の方は、貧乏な親戚の者と会食する役目をいやがって、できるだけ苦々《にがにが》しい顔つきをしていた。ポアイエ・ドゥロルム夫人は、椅子《いす》の上にきちんと威儀を正して、料理を勧めるときでさえ、たえず妹へ教訓をたれてるがようだった。ポアイエ・ドゥロルム氏は、真面目《まじめ》な話を避けるために、くだらないことばかり言っていた。面白くもない会話は、うちとけた危険な話題を恐れるあまり、食べ物の範囲外に出でなかった。ジャンナン夫人は強《し》いて、心にかかってる事柄に話を向けてみた。しかしポアイエ・ドゥロルム夫人から、なんでもない言葉でそれをきっぱりさえぎられた。彼女はもうふたたび言い出す勇気がなかった。
 食事のあとでジャンナン夫人は、娘にピアノを一曲ひかせてその技倆《ぎりょう》を示させようとした。娘は当惑し心が進まないで、ひどく下手《へた》にひいた。ポアイエ家の人たちは退屈して、その終わるのを待った。ポアイエ夫人は皮肉な皺《しわ》を唇《くちびる》に寄せて、自分の娘を見やった。そして音楽があまり長くつづくので、彼女はジャンナン夫人へ取り留めもないことを話しだした。アントアネットはその楽曲の中に迷い込んでいて、ある箇所では先をつづける代わりに初めをくり
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