と思われるほどだった。
クリストフはますます当惑して、隣席の人々と他のことを話そうと試みた。しかしだれも相手にしてくれなかった。それでも初めは、ドイツに関する漠然《ばくぜん》たる問いをかけてくれた。しかしその問いは、これらの教養あるらしい秀《ひい》でた人々が、パリー以外ではその専門――文学および芸術――の最も初歩の事柄をも、まったく知らないでいることを示すので、クリストフは非常に驚いた。ハウプトマン、ズーデルマン、リーベルマン、ストラウス(それもダヴィドかヨハンかリヒャールトかわからない)、などという幾人かの偉人の名前を、彼らはようやく耳にしてるくらいのもので、そういう人たちのことをも、おかしな取り違えをしはすまいかと恐れて、用心深く話してゆくのであった。それにまた、彼らがクリストフに尋ねかけるのも、ただ一片の挨拶《あいさつ》からで、好奇心からではなかった。彼らは少しも好奇心をもっていなかった。彼の答えにもろくろく注意を払わなかった。そしてすぐに、他の連中が夢中になってるパリーの問題の方へ、急いで加わっていった。
クリストフはおずおずと、音楽談を試みようとした。がそれらの文学者中に
前へ
次へ
全387ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング